この本はおすすめできません。感じ方は読者によって違うので、本ブログの書評は僕には面白くない本も面白かった部分だけ抜き出して記録しているのですが、この本は面白かった部分を抜き出すより、共感できなかったところを抜き出す方がよいです。というのも、この本をそのまま信じるのがかなりまずいからです。
この世界は、石油を燃料にして加速し続け、規模を拡大し続けなければシステムが維持できない資本主義のシステムによって動いています。いつか限界が来ることは誰もが知っています。しかし、社会で働き、生きていくには、この拡大し続ける仕組みに従っていくしかありません。本書では、1〜3章で、この問題に対する解答として、日本の江戸時代を挙げています。妥当な論理もありますが、言うなれば「昔に戻れ」ということです。石油も自動車も無い社会では確かにはるかにエコなシステムを実現できるでしょう。でも、それが出来ないから難問なのです。
「第4章 世界の覇者アメリカが堕ちるとき」では、20世紀のイギリスの没落をもとにアメリカの落日を論じています。歴史上、永久に覇者だった国は無いのですから、大げさに解説しなくとも常識というべきでしょう。
5章の中国関連は予備知識が無く信じてしまうと最も危険です。恥ずかしながら3〜4年前には、僕自身もこういった考え方をしていたと告白します。まず、日本の対中政策への提言です。
対日本で、米中の手を組ませないというのは、日本の地政学的な政策の、基本中の基本なのです。アメリカが今後、戦前にもあった中国への錯覚、「戦略的パー トナー」のような幻想と甘い思い込みに引きずられないように、日本はさまざまに働きかける必要があります。(P. 154)ようは、米中が仲良しにならぬように常に邪魔をしろということです。言いかえると米中対立は日本の利益になるということです。本当にそうでしょうか?そうではありません。共に覇権を目指すアメリカと中国が激突することこそ、日本を危機に陥れると考えます。核兵器を所有する米中二大大国の覇権争いに、アメリカの前線基地となった日本が、参戦するのが利益でしょうか...。逆に米中の関係が険悪になったら、日本が二国の手を携えるぐらいの度量が必要だと考えます。日本の指導者が上の引用のような稚拙な論理に惑わされることは無いでしょうが...。
次に、中国関連の経済の話。
1992年、鄧小平が広州などをまわった時に発表した南巡談話には、「成長は全てを解決する」という一節がありました。それを実現するために中国がやって来たことは、まず外資を導入し、合弁企業をつくり、そこで徹底的にノウハウを盗む。その後は、そのノウハウを使って別会社をつくり、別会社が順調に動き出すと、元の合弁企業に難癖をつけて潰してしまうか、撤退させてしまう。そういう方法で、あらゆるモノをつくってきました。 (P. 174)中国はノウハウを盗みながら、成長するらしいです...。まるで昔、ヨーロッパが成長するアメリカへ、欧米が成長する日本へ言っていたような、「コピーしか出来ない人達」というレッテル貼りみたいです。仮に上の断定が経営者に知れ渡っている真実だとすると、世界の企業が中国で作っている合弁企業の経営者は、ノウハウだけ盗まれに、中国に進出しているのでしょうか...。もちろん違います。もっと先の将来を見据えて中国に進出しているのです。これも企業を引っ張る経営者達が上の引用のような断言に惑わされることも無いでしょうが...。
また、中国は、「まともに考えれば、無事に発展を続けられるような要素はほとんどないのです。(P.184)」と断定しているのですが、理由として環境破壊/資源不足など日本の時も欧米から散々に言われた表現を言い回しています。日本に出来たことを、中国に出来ないと断定することがどれほど不可能であるかということに気づきましょう(当然、出来るとも言えませんが)。
全体を読んでみて、もしかしたら著者は冗談を集めて書いているのではないかと疑いました。僕の考え過ぎでしょうか、膨大な断定の数々から著者のこらえ笑いが漏れ聞こえるような気もします。もしかして著者は全力でボケていて、本書はツッコミ待ちだったのかも知れません。もしそうだとしたら、無粋なツッコミ失礼しました。本書を読む時は丸呑みしないように気をつけてください。
大丈夫な日本 (文春新書)
福田 和也 (著)
第1章 さらば右肩上がりの時代
第2章 群雄割拠が磨いた国家経営のノウハウ
第3章 江戸システムの先進性
第4章 世界の覇者アメリカが堕ちるとき
第5章 中国との距離感を歴史に学ぶ
第6章 わが国の針路
人口減少、財政赤字、中国台頭、階層化-。どれも、怖るるに足りず。日本という国家が再建し発展していくためのグランドデザインを、教育、経済、外交、エネルギー、倫理などの面から語り尽くす。これで日本の未来も安心だ!
日本とフランスの,留学,研究,政治,経済,外交,歴史,文化について考える 





