Versailles, France
最近、日本への移民に関する政策議論を立て続けに見て、すごく違和感のある移民賛成の立場を見たので少し書いていこうと思います。僕は将来的には移民には大賛成なのですが、現状では問題が多すぎてやめたほうがいいと思っています。

このエントリでは、移民を受け入れる目的を間違って賛成している論調を批判した後、「移民成功後の多文化を許容しあって異端に寛容な日本」と、「移民失敗後の列島/外国由来の二分された日本人が対立する日本」を想像して書いていこうと思います。

移民を受け入れる目的が間違っている

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以上のエントリは移民に賛成な方々の意見なのですが、乱暴にまとめさせていただくと不景気で産業競争力を失った日本を外国人の力で何とかしてもらおうという意見です。これは本当に浅はかな意見だと思いました。外国人は日本の景気を良くするために来るわけでもなく、産業競争力を立て直すために来るわけでもありません。おそらくそういった効果はあるでしょうが、そもそも外国由来の人達が日本人になっていくという永続的な変化を論じるのに、20〜30年で変動する景気や産業競争力を関連させることがナンセンスです。

もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい このエントリーを含むはてなブックマーク」でも書きましたが、世界最高レベルの利便性を誇る交通、水道、通信システムの恩恵に預かり、これまたトップレベルの安全で安心な社会の恩恵を受けて、トップレベルの教育を受けられる現状には飽きたらず、外国人の力を使ってもっと楽にもっと大金を手に入れたいという欲求をみると人間の欲求の際限の無さに辟易させられてしまいます。

日本人の外国人アレルギーに配慮してか高機能移民だけを受けれ入れるとの論調もありますが、移民賛成支持を取り付けるための姑息な説得にしか聞こえません。博士を取得した外国人を受け入れない国は殆ど無いはずです。僕の友人のパレスチナ人(おそらく世界一受け入れが厳しい国籍)はパリの大学の博士号を取得した後あっさりとフランス国籍を取得しました。彼曰くフランスがダメなら他の国に行くだけと言っていました。博士号を取得したらどこでも行けるとの自信の表れだったと思います。博士(=高機能移民?)にとっては、国家が移民を選択しているのではなく、移民が国家を選択しているのです。博士は日本に「来させてあげる」ではなく、アメを与えて「来て頂く」という方が近いです。

だいたい、どこの国でも高学歴のエリートは賃金を圧縮できる移民を歓迎し、大衆は低賃金の移民との競争による賃金の低下を恐れます。移民賛成を言っている 人のポジショントークは最も警戒すべき事柄です。そういった時には話者のポジションを見て反射的に「うさんくせー」と思うぐらいでちょうどいいと思います。もちろんこのブログのことも疑いの目で見ていただきたいと思っています。詳しくは→社会問題の議論でポジショントークを避ける二つの方法 このエントリーを含むはてなブックマーク

移民成功後の多文化を許容しあって異端に寛容な日本

繰り返しになりますが、僕は移民には大賛成です。ここでは賛成理由を書いていこうと思います。移民に賛成する本筋の議論は、移民で日本人が幸せになるかどうかであるはずです。僕は移民で日本人が幸せになる時代を夢見ます。日本に来た移民が幸せになって笑顔を生み、その笑顔を見て元から列島にいた日本人も笑顔になる未来です。

それは、狭い地球の各地で花開いた様々な文化や、その文化を背景とした考え方が自然に許容される世界です。人と違うことが短所にならず、長所となって互いに尊重されるような世界。列島に生まれた日本文化もその他の文化も同様に尊重され、統合を強制されない寛容な社会です。

現時点(2010年)でこのエントリを見ている日本人は、ほぼ列島由来の日本人でしょう。こういった社会が日本に誕生すれば、列島由来の日本人もまた幸せになれるはずです。異端に寛容な社会は開放感があります。人と違うことでいじめられることもありませんし、同調を強制されることもありません。希望すれば、地球上の様々な地域で花開いた文化にも日常的に触れられます。生まれてから死ぬまで単一文化しか触れられない社会よりも多文化に触れ合える社会のほうが楽しいでしょう。

移民失敗後の列島/外国由来の二分された日本人が対立する日本

しかし現状で拙速に移民を受け入れるとどうなるでしょうか。僕は確実に失敗する予感がします。景気を向上させるため、産業競争力を向上させるために来日する移民は多文化に不寛容な社会で生きることを余儀なくされます。人と違うことが不利になる社会で移民は生きづらいでしょう。移民は次世代には日本人となるのです。それは、あなたの子どもや孫が移民の子供と保育園で一緒になることを意味します。

外国人助っ人として来日する移民は、その定義からして主流の列島由来の日本人に従属する立場です。景気対策、産業競争力対策に連れてこられたのですから、言葉悪く言えば日本人の奴隷です。次世代にはその奴隷も日本人としての国籍を手に入れることになるのです。日本は列島由来の日本人と、外国由来の日本人に二分されます。将来それは、そのまま、奴隷として使われたものの子孫と、奴隷を使っていたもののの子孫として、認知されることになります。

それでもその保育園において、列島由来の日本人に明確な敵意を投げかける人は少ないでしょう。しかし子供は社会の歪みを敏感に察知します。奴隷由来の子供と列島由来の子供が対立する保育園に、あなたの子供を入れたいかということが問われているのです。僕はそんな日本になるなら、日本が経済的に徐々に衰退していく方がマシだと思います。

ここでは一部だけにとどめますが、どの国も移民は難しく、人種差別、人種間格差、宗教問題、 治安問題などなど問題の目白押しです。

まとめ

将来の日本の姿として「移民成功後の多文化を許容しあって異端に寛容な日本」と、「移民失敗後の列島/外国由来の二分された日本人が対立する日本」を書きましたが、現時点の日本では、移民は失敗する可能性が高いです。

フランスの移民政 策は成功しつつあるという認識 このエントリーを含むはてなブックマーク」では、フランスはよくやっていると書きましたが、移民関連で大量の問題が頻発するフランスを肯定的に捉えた背景には、日本が同じことをやったらフランスよりもっとひどいことになることを痛感するからです。歴史的に、日本は多文化が許容しあって社会を作った経験がフランスより少ないことは明らかでしょう。有名なスカーフ問題のように、国の理念とある文化の価値観が決定的に食い違ってしまったら、どんな理論を打ち立てるべきか徹底的に議論しなければなりません。そういった経験が歴史的に日本には少なすぎるのです。景気や国際競争力といった瑣末な問題のために、移民を入れるのを急いではいけません。

いったい何時になったら日本が移民と共生する社会を作れるようになるのか、このブログを書いている目的に少し関係するのですが、次のエントリで見ていこうと思います。

続き↓
日本が移民を受け入れられるようになるための条件と提案 このエントリーを含むはてなブックマーク

移民との共生には競争より調和を このエントリーを含むはてなブックマーク



関連:

フランスの移民政策は成功しつつあるという認識 このエントリーを含むはてなブックマーク
大陸の人は国家は気持ちの持ちようだと思ってる このエントリーを含むはてなブックマーク
社会問題の議論でポジショントークを避ける二つの方法 このエントリーを含むはてなブックマーク

Twitterでの会話(追記):
Togetter - 「移民に賛成する二人が異なる視点から意見を交わす」 Togetter - 「移民に賛成する二人が異なる視点から意見を交わす」

「Rails で行こう!」の@elm200さんと「フランスの日々」の@Sophie525が交わした会話

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6 Responses so far.

  1. says:

    私が移民政策に懐疑的な理由は2つあります。
    まず、日本は現在失業率が現在5.6%(これはハローワークを介して就職をしようとしている人の数でしかありませんから、一部の推測にはアメリカ並みの9%程度まで上昇するとのの意見もあります)加えて企業内失業者が600万人強。
    簡単に言うところ仕事がありません。
    この状況においてどうい業種、事業に従事することを想定して移民を受け入れるつもりなのか。
    農業、介護医療、飲食業、あるいは製造業でしょうか。
    移民が新たな地平を切り開く推進力となると言った考えの方もいらっしゃいますが、明確な意図の無いままとりあえず入れてみよう、では理解を得ることは難しいのではないでしょうか。

    ついで、日本には生活保護を受給することによって働かずに生活をしている外国人が5万人以上おり、またこの数値は未だ上昇中です。
    無論、他の多くの外国人は熱心に労働に従事しているのでしょうが、働かずに日本が養う格好になっている外国人に対して強制送還を行なうなり、対処の方針をはっきりしておかねば、新たにやってきた外国人がこういった形で定住してしまった場合に手の施しようがなくなってしまう恐れがあります。
    フランスには国に養われている外国人は居ますか?移民は失敗した場合には本国へ帰るより他にない状況がインセンティブとして期待できるのではないのでしょうか。
    上記の2点は現在の日本の課題でもあるわけですから、成果を期待して熱心に行なわれる移民政策に対する議論より、まずこういった後ろを振り返るような、あまり旨味の無い議論から始めなければならないのではないかと考えるのです。

  2. Anonymous says:

    本筋とは関係ない話で申し訳ないのですが、失業率にはハローワークを介さず求職されている方も含まれています。
    まあそれでも仕事がないことには同意ですが・・・

  3. infobloga says:

    自分の意見(link)と非常に近いお考えですね。

    移民には経済的な問題と、
    文化的な問題があり、
    それぞれ賛成/反対の立場が取れると思います。
    私は経済問題としては保留
    (正直に言うと反対だが、専門外なので触れない)、
    文化的な問題としては
    Sophieさんと同じく、「賛成」だが「時期尚早」という意見です。

    Sophiaさんは、両者を切り分けた上で、
    文化的な問題を重視すると明記していますが、
    このあたりときちんと切り分けないと、
    議論が錯綜してしまうと思うんですよね。

    こうやって整理した上で言えば
    高機能移民という話も理念としては見当違いではないと思います。
    1. 高機能移民を増やさないといけない
    2. 現在も制度的に可能だが、文化的・思想的に難しい
    3. そうでれば、文化的・思想的な面を改善していこう
    こういう話であれば、自分も賛成だし、
    Sophiaさんも、賛成していただけるでしょう。

    ただ、以前書いた(link)ように、
    また、Sophiaさんもおっしゃるように、
    実際の推進派の大部分は、
    雇用側の人々が単純労働者を入れたいだけです。
    だから、高機能移民を増やせる文化・思想的基盤を作ろうという意見は、
    単純労働者を増やしたい雇用側の人々に利用されるだけに終わるでしょう。
    このあたりの話を整理することが、重要ではないかと思います。

  4. infobloga says:

    あと、elm200さんとのTwitterでの議論(link)に関して言うと、
    一般に、経済合理性という言葉が
    ミスリーディングな使い方をされていることに留意するべきだと思います。

    経済合理性と言ったとき、
    通常は「GDPの最大化」を意味して使われますが、
    これは直接的には雇用主側にとっての合理性であり、
    決して、全ての人が得をする合理性ではありません。
    同じく経済学的モデル化できる「合理性」には、
    「国民の最低所得の底上げ」という視点があるはずですが、
    こちらはほとんど問題にされないのです。

    一部の経済学者は「GDPが最大化すれば最低所得も底上げされる」と言いますが、
    これは詭弁です。
    両者が最大値を取るパラメータは当然異なるからです。
    言い換えれば、「GDPが最大化すれば最低所得も(現在より)底上げされる」
    であるケースが多いとしても、
    「GDPが最大化すれば最低所得も最大化される」は絶対にウソだということです。
    彼らはそんなモデルを立てたことも、
    シミュレーションをしたことないはずです。
    また、全ての「GDPが最大化される」政策で、
    「最低所得が(現在より)底上げされる」かも分かりません。

    たしかに、多くの政策に関して、
    両者の違いは問題にならないかもしれませんが、
    この両者の開きが非常に大きいのが移民政策でしょう。
    移民政策は雇用主にとっての合理性があっても、
    被雇用側にとっての合理性は必ずしもないのです。
    これが混同されているのは非常に問題ではないかと思います。

    infobloga
    情報学ブログ:http://informatics.cocolog-nifty.com/blog/
    Twitter:http://twitter.com/infobloga

  5. Anonymous says:

    >世界最高レベルの利便性を誇る交通、水道、通信システム

    それを作ったのは日本人。それにただ乗り使用とする人々を受け入れるいわれはどこにもありません。
    日本国と運命を共にする気の無い人々を受け入れるのにコストをかけるのは損なだけです。

    高機能な人材が欲しければ、大金を積んで購入すればよいのです。明治期のお雇い外国人のように。

  6. 初めてコメントをさせていただきます。

    私は、現状での移民に対する意識は否定的です。もちろん、グローバリズムの現代、日本だけが世界に門戸を閉ざすわけにも行かず、無条件で移民に反対だと言っているわけではありません。現実に、非常に優秀な人たちが大勢帰化し、日本を愛し、日本に新しい価値観をもたらしてくれる事実もあり、それに対してはまったく異論はありません。

    ただ、お説の様に、単に労働力不足を解消するために人間を入れればよいと言う安易なものであるなら、それはいずれひずみを生み出し、将来大きな禍根をのこすでしょう。それはヨーロッパで現実になっており、ドイツではトルコ人を、フランスやオランダなどでは旧植民地の人間を優先して入れたため、今は社会を二分しかねない問題になっていることはご存じの通り。サルコジ氏が移民規制を主張し、移民社会から反発を受けているのは、それだけの勢力に彼らがフランスの中でなってしまったと言うことです。

    貧しい国から豊かな国へ人間が流れるのは自然でありこの流れを強制的にとどめることは不可能でしょう。そして、都合良く優秀で日本を愛してくれる人たちだけが移住してくるわけではありません。

    しかし、日本には中国という特殊事情あります。隣接しているため、今でも大量に不法滞在者が密入国してきて、様々な問題を起こしており、労働不足の解消よりもむしろ、年金、社会保障などの面で大きな負担になっています。

    さらに、中国の棄民政策により、大量の国民を海外に移住させているのが現実であり、そのため、実際に日本に在住する中国人は爆発的に増えています。もちろん、彼らの大半は、単に良い生活を求めて日本に来るのでしょうが、そのために日本に寄与する意識はありません。彼らは自分の国を捨ててきたのであり、国家に帰属する意識が無く、何処にいても彼らだけの集団を作り、周囲と軋轢を生じて、世界の各所で中国人排斥運動が起きているのはご承知と思います。

    一人が日本に生活の基盤を作ると、たちまち家族親類縁者を呼び寄せ、来日後すぐに生活保護を申請したり、母国では望むべくもない高度医療を無償で受ける目的で日本に来ています。そして、非常に高い出生率ですぐに大人数になり、彼らだけのゲットーを作ります。

    このような国が隣にあり、その棄民政策を変えない以上、それに対する策は講じなければなりません。

    日本でも今後50年間で1000万人の移民を受け入れるべきと主張している勢力(たとえば坂中英徳氏)や民主党内部の会派があります。そして、事実上その対象は中国人です。

    詳しくは私のブログ
    日本のあり方を考える
    http://takaojisan.blog13.fc2.com
    の本日のエントリーにあります。是非ごらん下さい。

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