フランスは18歳の時の入学試験で優秀な成績を収めたグランゼコール出身のエリートが社会を主導しています。対する日本は社会に出てからもほぼ平等な立場でリーダーの地位を目指して競争します。これに関して、日本は誰もが競争を降りることなく、希望を持って上位を目指せる環境があるから、全員が辛くなってしまうという趣旨のエントリがありました。
このエントリでは、一般のフランス人がどんなにお気楽に幸せに過ごしているかではなく、フランスのシステムが作るエリート達について日本と比べてみていこうと思います。
日本ではリーダーとなる人物に未来に対するビジョンが欠けていると嘆かれています。日本のシステムでは、皆が平等に競争を行うため、将来リーダーになる人にも平等に仕事を与えられます。将来リーダーになる人も平等に短期の仕事に煩わされることになるのです。そして人の抜きに出る業績で社長のイスまでたどり着いたあとに、初めて人よりも遠くの未来を見通すことを求められてしまいます。これでは、未来に対するビジョンに欠けているのも頷けます。
フランスと日本のリーダーの違いは、20歳の頃から遠く未来を見通すことだけを使命として成長してきた者と、短期の仕事をやっつけることに血道を上げてきてリーダーになった瞬間に初めてビジョンを語ることを余儀なくされる者の違いです。
ビジョンを示すリーダーとして日本でも有名なカルロス・ゴーン氏やジャック・アタリ氏もグランゼコール出身です。ゴーン氏はミシュラン入社から3年目(27歳)で工場長、入社7年目(31歳)でブラジル・ミシュランの社長、入社11年目(35歳)で北米子会社の社長とCEOという出世をしています。まさに人を統べるためだけのキャリアといえます。
アタリ氏がミッテラン大統領の大統領補佐官になったときは38歳でした。「[書評] 21世紀の歴史——未来の人類から見た世界」を読めばわかりますが、未来への洞察力をひたすら磨いてきた人だと言うことがわかります。
(たいていの口の悪いフランス人にとってはグランゼコール出身者は悪口の対象となります。入学したら勉強なんてしないよとか、高級官僚の天下りのことをPantoufles(上履き)などと揶揄したりします。汚い地面に足をつけずに心地よい上履きのイメージでしょうか。)
ミーティングなどでは、論理的に自然に議論を主導していきます。また、工学の先生なのに歴史や文化への造詣が深く、雑談の折に触れて若い学生にも基礎から語ってくれたりします。うちのチームは学生から教授まで全て、親しい者に対する「あなた」を意味するtuを使って会話していますが(普通は目上の者に対する「あなた」はvous)、工学の議論でもいつでも対等な立場で議論しているような印象を与えています。
出張でこの教授と長く2人の時間があったときは、事前にそれなりに緊張していましたが、実際はすごく楽しい時間を過ごせました。日本とフランスの比較などで僕の意見を熱心に聞いてくれたり、自説を披露したりしてくれただけでなく、家族構成や家族の歴史なども話し合うことができ、親しい感じの印象を与えてくれます。また、わからないことがあったり、確信が持てないことがあったりすると、自然な感じで僕の意見を求めてくれたりします。
理念をもって、誰よりも遠い未来への洞察を求めて、人の上に立つ運命を感じながら成長して、余裕がある人物がこういう風になるんだなという風に感じています。
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人生は早めに諦めよう! - Chikirinの日記確かにフランスは18歳で上位のグランゼコールに入学すると将来のリーダー候補になり、それ以外の人は、お気楽な人生を歩むことになります。つまり、このシステムは18歳以降の順位を固定し、大器晩成を否定するシステムです。このようなシステムが日本でも受け入られるとは思いませんが、希望を持って上位を目指せる環境が全員を辛くしているというのは、あるような気がします。
しかし一定の年齢で、たとえばイギリスやフランスに生まれていれば小学校の終わりくらいで、「自分にはオックスブリッジやグランゼコールにいって、エリートキャリアを手に入れて、高給が約束された職業を得るのは無理だ」とわかる。
このエントリでは、一般のフランス人がどんなにお気楽に幸せに過ごしているかではなく、フランスのシステムが作るエリート達について日本と比べてみていこうと思います。
人を統率することだけに特化して成長する人たち
多くの人が早めに人生を諦めることになるフランスのシステムはリーダーの資質を高めることに寄与します。18歳で上位のグランゼコールに入学すると将来リーダーになることが保証され、会社などでもリーダーになることに関係しない面倒な仕事は彼らに与えられることはありません。彼らは短期の仕事に煩わされることなく、一般の人たちよりもより遠くの未来を見通すことを自らの使命とします。彼らは将来、未来に対するビジョンを持ったリーダーになることを目的に据えて成長していきます。そして、それを周りの人からも求められているのです。日本ではリーダーとなる人物に未来に対するビジョンが欠けていると嘆かれています。日本のシステムでは、皆が平等に競争を行うため、将来リーダーになる人にも平等に仕事を与えられます。将来リーダーになる人も平等に短期の仕事に煩わされることになるのです。そして人の抜きに出る業績で社長のイスまでたどり着いたあとに、初めて人よりも遠くの未来を見通すことを求められてしまいます。これでは、未来に対するビジョンに欠けているのも頷けます。
フランスと日本のリーダーの違いは、20歳の頃から遠く未来を見通すことだけを使命として成長してきた者と、短期の仕事をやっつけることに血道を上げてきてリーダーになった瞬間に初めてビジョンを語ることを余儀なくされる者の違いです。
グランゼコール出身者
大衆を教育するための大学とは違い、グランゼコールは少数精鋭の教育方針でリーダーとなる者を教育します(例えば、ポリテクニークは一学年フランス人400人、外国人100人ほど)。よって、ほとんどのリーダーはグランゼコール出身となります。日仏経済情報によると”フランスの上位200社の大企業では、社長の50%はENAと ポリテクニークの出身者で、エコール・デ・ミーヌや ポン・エ・ショセなどを含めると実に3分の2の企業経営のトップがこれらの官僚の出身者で占められている”そうです。ビジョンを示すリーダーとして日本でも有名なカルロス・ゴーン氏やジャック・アタリ氏もグランゼコール出身です。ゴーン氏はミシュラン入社から3年目(27歳)で工場長、入社7年目(31歳)でブラジル・ミシュランの社長、入社11年目(35歳)で北米子会社の社長とCEOという出世をしています。まさに人を統べるためだけのキャリアといえます。
アタリ氏がミッテラン大統領の大統領補佐官になったときは38歳でした。「[書評] 21世紀の歴史——未来の人類から見た世界」を読めばわかりますが、未来への洞察力をひたすら磨いてきた人だと言うことがわかります。
(たいていの口の悪いフランス人にとってはグランゼコール出身者は悪口の対象となります。入学したら勉強なんてしないよとか、高級官僚の天下りのことをPantoufles(上履き)などと揶揄したりします。汚い地面に足をつけずに心地よい上履きのイメージでしょうか。)
彼らはとても人当たりが良い
人を統率するためだけの教育を受けてきた人に接するのは難しそうだと思いがちが、そうではないと感じています。僕がお世話になっている先生達の中には、まさにこういったキャリアを歩んできている人たちがいますが、彼らは例外なく誰に対しても快く接することができる人物だと感じます。ミーティングなどでは、論理的に自然に議論を主導していきます。また、工学の先生なのに歴史や文化への造詣が深く、雑談の折に触れて若い学生にも基礎から語ってくれたりします。うちのチームは学生から教授まで全て、親しい者に対する「あなた」を意味するtuを使って会話していますが(普通は目上の者に対する「あなた」はvous)、工学の議論でもいつでも対等な立場で議論しているような印象を与えています。
出張でこの教授と長く2人の時間があったときは、事前にそれなりに緊張していましたが、実際はすごく楽しい時間を過ごせました。日本とフランスの比較などで僕の意見を熱心に聞いてくれたり、自説を披露したりしてくれただけでなく、家族構成や家族の歴史なども話し合うことができ、親しい感じの印象を与えてくれます。また、わからないことがあったり、確信が持てないことがあったりすると、自然な感じで僕の意見を求めてくれたりします。
理念をもって、誰よりも遠い未来への洞察を求めて、人の上に立つ運命を感じながら成長して、余裕がある人物がこういう風になるんだなという風に感じています。