Provins, France
10月26日に日本に帰ってきました。台風通過後で飛行機がすごく揺れるというアナウンスが機内に流れ、実際にすこし揺れました。帰国後のニュースは、台風で転覆した船で3人が生存していたニュースと、ある女性の周りで不可解な死亡が頻発している事件の二つでした。

去年の正月に帰ってきたときも一時帰国の雑感を書いたので、今回も時間がたつとまったく忘れ去ってしまうような感覚を書いておこうと思います。

成田から横浜の自宅まで:異邦人の感覚

まず成田空港に降り立ったときに、気温は同じぐらいでかなり湿気が高いと感じました。パリでは、洗濯物やパンなどなんでも物が乾く乾いていきます。

空港の「Welcome to Japan」と「おかえりなさい」の併記に少し違和感を覚えました。やはり日本語は日本人だけがしゃべるものだと言う思い込みが強いと思います。つまり、日本語を勉強して初めて日本に降り立つ外国人とかは眼中に無いような感じです。フランス語では有り得ない前提だと思います。とはいえ、「日本へようこそ」では帰国者は興ざめです。担当者の気遣いに思いをいたしました。

空港内の売店には中国語が書かれていました。中国人の来日が増えていることが伺えます。

JR構内にはいたるところに駅員が配置されていて、しかも親切に教えてくれます。フランスでは有り得ないおもてなしに感激。アナウンスではすべての止まる駅を繰り返してくれたり、親切設計です。少しうるさいと感じる人もいるかもしれません。

駅と電車はかなりきれいです。観光で利益を得てるフランスも見習ったほうがいいと思います。グリーン車の切符拝見はスイカを席の上のリーダにかざせば、自動的に支払われるようでした。パリのNavigoも非接触カードだが期間単位の定期券しか買えない仕組みなので、座席の利用ごとに支払えるなんて未来のシステムに見えます。あと、機械に対する信頼度が日本の方が高いように感じます。パリでしょっちゅう壊れている改札を見ると、だんだんとそれを乗り越えている人間のほうが正しく感じてくるんです。そんな状態で座席ごとに支払われる仕組みを信頼するはずが無いと言い切れます。

地元に着くと帰ってきた~という感覚が沸きますが、これは別に日本だからと言うわけでもないみたいです。旅行からパリ郊外の自宅に戻ってきたときも同じような感覚を覚えるからです。住めば都という言葉もこれを表わしているかもしれません。

住んでいるうちは気づかなかったけど、今回気づいたのは、家の香りが、祖父母の家の香りと同じことです。

日本酒と刺身は、やっぱりうまい。最初の一口目は脳天に直撃したみたいでした。

2~3日目:危機管理に敏感になってるのかな?

この二日間は都内に出ていました。そこで気づいたことは日本人が危機管理に敏感になっているような気がしたことです。まず、この二日間で何回か電車で移動しましたが、3度も「緊急停車信号を受信しましたので安全確認ができるまで運転を見合わせます」というアナウンスが流れたのです。偶然かもしれませんが、電車運用の安全確認が厳しくなっているのかもしれません。

また、都内と横浜の地下鉄のおそらく全プラットホームに進入禁止のドアが設置されていました。日本人の安全志向の傾向が高まっているように感じます。安全志向は基本的にはいいことですが、安全とコストはトレードオフの関係にあります。コスト度外視で、なんでも完璧がいいとも言い切れないはずです。自己責任で安全に気をつけてくださいという方針も有り得ることなのです。

安全な環境に慣れれば、そのうちドアの無いプラットホームに恐怖する人が出てくるかもしれません。サービスを運用する側にすべての責任があって、顧客は安全について何も考えない環境が良いのか考える必要があります。すくなくとも、安全志向の高まりについては気に留めておいたほうがいいと思います。

5日目まで:日本は進化している

日本を離れて2.5年、3回目の一時帰国ですが、日本はものすごい勢いで変わっていると感じます。まず、地元では建物の風景がぜんぜん違います。実家の近くは開発中の地区だからかもしれませんが、フランスではこんな町はひとつも無いでしょう。パリはいつ来ても何も変わってないと言う妙な安心感がありますし、田舎の町はもっとそうです。

母校の研究室に挨拶に行ったのですが、こちらでも大きく変わっているという印象を持ちました。まず、研究室に留学生が増えました。日本にいながらにして国際的な環境で学ぶことが出来ます。また、大学院の授業では英語で行われるものも増えてきているそうです。留学生にとってはうれしい環境かもしれませんが、日本人の学生が付いていけないこともあるそうです。英語の必要性に気付けるいいチャンスだと思いました。

また、母校のキャンパスでは、グローバル30のカリキュラムを始めることになり、これによって英語だけで学位を取れるようになるそうです。僕は、「フランス留学のススメ」に書いたように考えてフランスに来ましたが、今ぐらいの学生は日本に居ながらにして、同様の経験ができるようになるのかも知れません。

以下去年の一時帰国の雑感です。
Read More ...

6 comments


Celle St-Cloud, France
2009年9月22日、鳩山首相が国連で、日本は温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減すると表明しました。1997年の京都議定書の削減目標6%すら守れていないのに(逆に9%増えている)、ムリムリというのが普通の反応です。1990年から25%の削減というと、あと10年ほどで今年の排出量から3分の1にする必要があり、年率にすると4.1%の削減だそうです(参照)。

この目標は、経済的なコストがかさみ、企業の業績の足かせになるなどの反発もありますが、なかなか絶妙な政策だと思いました。

難しい問題だからこそやりがいがある

まず、この問題は人類がいつかは解決しなければならない問題だということがあります。地球の温暖化は温室効果ガスだけが原因ではないという調査結果なども出ていますが、エネルギー問題/環境問題としてみると、今は増え続ける一方の排出量を、いつかは減らす努力をしなくてはなりません。首相が「世界の中で相対的に高い技術開発力と資金力を持つわが国が、率先して削減目標を掲げ革新的技術を生み出しつつ、その削減を実現していくことが国際社会で求められている」と言うように、日本はこの問題を解けるかも知れない数少ない国のうちの一つです。

また、以下の引用にもある通り日本人は目標に向かって一致団結すると馬力が出るところがあります。現状ではかなり解決困難な目標ですが、団結して知恵を出し合い工夫を重ねれば、もしかして打開策が出てくるかも知れないという期待もできます。

ハトが大風呂敷から舞い上がる:日経ビジネスオンライン
「所得倍増」とか、「日本列島改造」とか「ふるさと創生」とか、この手の手近なハードルが決まると、うちの国の国民は、非常にめざましい働き方をする。でなくても、われわれは、「電子立国」「技術立国」みたいな壁に大書できるタイプの目標があると、その方向に一致団結してとても効率的に動く。これは、他の国の 人々にはなかなかマネのできないことだ。
日本人としてはやりがいのある目標に思えます。

環境先進国のイメージは日本企業の後方支援

温室効果ガスの排出を削減する努力は、排出を垂れ流すことに比べてコストが高くつきます。高すぎる削減目標には企業からの反発もあるようですが、長い目で見ると日本企業にも良いことが2つあります。まず、これから削減目標を満たそうとする努力を優遇する税制が出てくると思われます。これはエネルギー効率を改善する技術に対する投資を容易にします。排出ガスを垂れ流すことが許されている国では高コストな排出削減努力は行えませんが、削減に努力している国では高コストな排出削減への投資も行えます。下の引用にあるように、技術的な成果は輸出可能で利益にもなります。削減努力をする企業に取っては有利な状況となります。

「25%削減」に秘策はあるか? 「ポスト京都」命運握る排出権取引 JBpress(日本ビジネスプレス)
首相が言うように「高い技術開発のポテンシャルと資金力を持つわが国」はリーダー的な役割を担いつつ、その技術を海外に輸出して市場を形成する可能性を追求すべきだろう。国益としても重要事項である。
次に、消費者の環境意識の高まりは、環境に配慮した製品が選択される傾向を生み出し、今後は消費コストの少ない省エネな製品の人気が高まるはずです。この時に、環境問題を考えない国の企業が省エネの製品を出しても信用されません。過去に「高機能、高品質」なイメージで世界を席巻した日本製品のように、「環境、クリーン」な日本のイメージは将来、日本企業を後方支援するはずです。

官僚主導の政治を政治家主導に

この政策を絶妙だと思うところに、官僚主導の政治を変える意図を鮮明に感じるところです。新首相の方針として、官僚主導の政治を官邸主導にというものがありました。現在は指揮官と幕僚を両方官僚が占めているところを、政治=指揮官、官僚=幕僚という図式に変えることです。何かと批判が出ている官僚ですが、以下のように日本の官僚の優秀さは世界でも認められているほどです。指揮官がしっかりすれば、幕僚は強力だと言うことです。
日本のメディアと政治:出ずる日の光を取り込め  JBpress(日本ビジネスプレス)
「官僚社会の精神構造はまさに、サムライ当時のままだ。それは強い意思を持ち、忍耐強く、組織的にも非常に強いものだ」
さて、「2020年までに1990年の25%CO2削減」という大戦略は指揮官(政治家)が決定したことです。今までのように官僚が指揮官と幕僚を兼ねていれば、到底無理な目標だと反発して、全体の方向性が発散してしまったでしょう。官僚=幕僚という図式に当てはめれば、指揮官の決めた不可能に思える目標を可能にする個々の作戦を立案するのが官僚の仕事になります。優秀な官僚がしっかり仕事をすれば、わずかな可能性を開く打開策が見えてくるのではないでしょうか。期待したいです。

鳩山首相は「2020年までに1990年の25%CO2削減」という大方針を世界に約束したことで、政治=指揮官が大戦略を構想し、官僚=幕僚が個々の作戦を作るという構図を創り出したことが、絶妙な一手だと思います。(優秀な指揮官を選べるかは投票を行う国民の知性によるので、また別の話です。)

環境立国日本を目指して失敗したら教訓になる

25%削減で日本はまた欧米の手玉に?:日経ビジネスオンライン」には、京都議定書では欧米にカモられて不平等な削減目標を飲まされて、今回の発表では欧米はラッキーと思っていると書かれており批判的です。この批判的な試算では、排出権を「仮にトン当たり15ユーロ(約2000円)で買い付けるとすれば、8000億円の国民負担になる。...(略)...単純計算して6%削減のために8000億円が必要であれば、25%のためには、3兆3000億円が必要になる。」とあります。全てがダメダメに終わっても3兆3000億円です。湾岸戦争、住専問題、無駄な道路/建築などなど、ドブに捨てるように使われてきた数十兆円に比べれば掛ける価値のある金額だと思います。演説では「日本の25%削減目標は、すべての主要国による意欲的な目標の合意が前提」と予防線を張ってますが、中途半端に尻すぼみにして、なかったことにするにはもったいないほどの可能性のある賭けだと思います。

「2020年までに1990年の25%CO2削減」という目標は、世界を驚かせるには十分な数値目標で、成功すればこの分野における日本の立場を確固たるものにするはずです。とはいえ、非常に難しい目標です。一致団結して腰を据えて取り組み、本気でやらねば絶対に到達できない目標でもあります。

知恵を出し切り工夫を尽くした上で目標を達成できなければ、少なくともその頃には日本には環境立国という道があるのか、ないのかハッキリするはずです。まずは一つの方向にひたすら進んでみて、ダメでも教訓が残るはずです。その教訓を元に他の方向にも再チャレンジすれば良いことです。最近の日本のようにチャレンジすべき問題が見つからなくて、悲観的にだんだん沈んでいくように思っているよりは、断然マシだと思います。
Read More ...

19 comments


Toulouse, France
9月はブログに時間を取れなくて5エントリを投稿してのアクセス数は約40200PVでした。

日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない」9月3日にガジェット通信さんに寄稿と言う形で掲載させてもらいました。この記事はmixiニュースlivedoorニュースexciteニュースに転載されていたため多くの人に見てもらえたようです。そのおかげで、2ちゃんねるでもスレッドがたって議論されていたようです。この様子はまとめサイトでも見れます。
議論の中で、このブログの著者が日本人であることに気づかない人がいたので、Madeleine Sophie (日本人・男)と自分の属性を載せるようにしました。フランスでは全ての日にちにキリスト教の聖人が割り当てられていて、Madeleine Sophieは僕の誕生日の聖人なのですが、実はこの方はフランス人女性なのです。混乱させてしまったかもしれません。

博士課程には2年前の10月に入学したので、卒業を予定している時期がちょうど後1年に迫りました。ちゃんと終わらせるにはどうすれば良いか、その後はどうしたいのか、いろいろ考えなければならない時期にさしかかってきました。元々このブログはフランスで博士課程をする人を勇気づけたいと始めたものなので(→[まとめ] フランス留学のススメ)、自分自身がちゃんと学位を取得できなければ目的と反対の影響を与えてしまいます。そうならないように、いろいろ考えていかないとなあと感じています。

今月のトップエントリです。
  1. 日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない
  2. もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい
  3. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
  4. 日本文化エロネタに対するフランス人の反応
  5. 第10回 Japan Expo Paris 2009行ってきました
  6. フランス語の勉強の仕方
  7. 日本の失敗産業と成功産業は間もなく融合する(通信と自動車)
  8. 日本人はなぜ悲観論が好き
  9. フランスのマンガ人気
  10. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(1/2)
Read More ...

0 comments

RSS登録

←登録すると「フランスの日々」の記事が自動配信されます


←BLOGOSにも参加してます



最近のエントリ

Twitterのコメント

はてなブックマークのコメント