Paris, France
怠け者同盟の社会は人類の未来」で述べた怠け者同盟の社会の持つ一番の問題点として、働き者の社会との競争に容易に敗北するということが挙げられます。怠け者同盟の社会では、週35時間しか働いていなくて、日曜日は店を開けることが禁止されています。一方、働き者の社会では24時間オープンのコンビニが氾濫し、人々は家族団らんの時間や読書・音楽といった文化的な生活を送る時間を削りながらも働いているので当然です。

働き者の社会は、熾烈な競争を通じて全体のパイを広げるアングロサクソン(米英)モデルとも言え、日本の社会も採用しているモデルです。当然、怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争は、働き者の社会の完勝と言えます。普通に競争すると怠け者同盟の社会が競争に勝利することはありえません。

怠け者同盟の社会の弱点

怠け者同盟の社会の弱点は、国内市場で競争を抑制できても、グローバル市場では競争を排除できない点です。怠け者ルールを国内で徹底していても、怠け者同盟の社会がフランス一国であれば、フランスの産業だけの国際競争力が低下して、フランスだけが貧しくなります。フランスの製品の品質が低下するから、外国では売れません。

さらに、フランスでは35時間労働制や日曜日労働禁止など、競争をエスカレートさせないルールが設定されていて商売がしにくいため、工場が隣国に逃げていきます。なぜなら、外国企業が、工場を作ってフランス人を雇うにしても、怠け者ルールを適応されてしまいます。フランスで利益を上げようとするなら、隣国で製品を作ってフランス市場で売る方が利益が出ます。

当然フランスも、1.フランスの品質の低下によりグローバル市場でのシェアが低下する問題、2.産業が隣国に逃げ出していく問題に気づいています。

同盟の拡大を目指す怠け者同盟

そこで、怠け者の同盟を大きくして、怠け者ルールを適応できる範囲を拡大するアプローチが取られます。これが、このブログで怠け者同盟と「同盟」の二文字を加えた理由です。手始めはヨーロッパ27カ国からなるEUでしょう。フランスが一貫してEU議会のイニシアチブを狙っていく理由の一端です。

まず、この市場で競争がエスカレートしないようなルールを設定します。労働者が35時間以上働いた企業や、日曜日に開店した店舗を抜け駆けとして市場から排除します。現状だと、過労死が発生した企業や、サービス残業が横行している企業は格好のターゲットになるでしょう。こうして、拡大した同盟の市場から働き者を排除していきます。怠け者同盟の社会がフランス一国だったら、グローバル企業は、商売が難しいフランス市場を見捨てたかも知れません。それがEU27カ国となると話は違ってきます。ユーロ経済圏のGDPはアメリカのGDPを凌駕しています。簡単に諦められる市場規模ではありません。EUで商売をする企業はEUで通用するルールに則って商売するしかありません。

論理によって維持される怠け者同盟

同盟が分裂しないように維持し、強制力をもって働き者を排除する正当性は論理によってなされます。”エスカレートした競争がいかに人を幸せにしないか”、”競争を抑制した社会が人類の未来のあるべき姿”か、主張します。槍玉に挙げられるのは発展途上国の未成年の不当労働、過労死や過剰労働による鬱などです。これらが人間の基本的人権を踏みにじっていると主張します。

1789年、フランス人権宣言とも呼ばれる人間と市民の権利の宣言(Déclaration des Droits de l'Homme et du Citoyen)を高らかに宣言したフランスは、人権の母国としてのプライドを持っています。人がより良く存在できるための理念を率先して作るのは自分達だと思っています。発展途上国の悲惨な未成年の不当労働を持ち出して世論を動かし、反論することも困難なほどの論理をもって人権の範囲を拡大してくるでしょう。つまり労働の制限が人権に加えられようとしています。英語でもフランス語でもKarōshi(過労死)という単語が使われます。これは、日本に興味があるわけではなく(少しはあるかもしれませんが)、同盟の論理を強化する理由に使える可能性があると思って興味を持っていると思われます。

怠け者同盟の拡大と同盟の論理の今後の展開

現状では、過労死が発生した企業やサービス残業が発生している企業の製品であってもEU市場から排除する強制力はありません。このエントリでは怠け者同盟の社会が将来取りそうな方策をデフォルメして書いてみました。しかし、フランス社会党の元党首のセゴレーヌ・ロワイヤル氏が2007年の大統領選挙で訴えた、「国際的に人権を保護するフレームワークを各国協調で作り上げる」という構想は、拡大すれば以上に述べてきたような市場に競争を排除するフレームワークともなり得えます。

さらに、「競争の抑制によるソシアリスムの実現」にも書きましたが、昨今ヨーロッパで流行っている近い活動にフェアトレードの 考え方があります。これは途上国の製品を不当に買い叩かないという慈善的な意味合いを持つ活動ですが、労働に対して正当な値段を付けるというフェアトレードの考え方は、不当な労働に対しては許容しないという考え方に移行するかもしれません。未成年の過剰労働などを通じて不当な搾取によって作られた製品をEU27カ国の市場から閉め出したりすることが、将来可能になるかもしれません。世界の風潮と、怠け者同盟の取りうる戦略を考察するとそういった結論にたどり着きます。過激な競争によって製品の品質を向上させる日本企業は怠け者同盟の社会の動きに注目です。
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1.仲間を募って同盟を拡大し、2.世界を説得する論理を創り出すと言うのは、今の日本の苦手とするところです。今後は、この同盟のイニシアチブを握るフランスの状況を分析した後、日本の取りうる戦略について考察しようと思います。このブログでは、以下のエントリを予定しています。
  1. 怠け者同盟の社会のまとめ
  2. 怠け者同盟の社会は人類の未来
  3. 怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段(本エントリ)
  4. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス
  5. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本
  6. 怠け者同盟の社会の中で輝きを取り戻す日本
  7. 自由のスパイラルから脱出を目指す怠け者同盟
  8. 労働に対する社会の仕組みを試験に例える
  9. ベーシック・インカムよりも怠け者同盟の社会 このエントリーを含むはてなブックマーク
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Paris, France
日本はけっこう成功しているというエントリ(日本はもうダメだ論と日本の優秀な人材このエントリーを含むはてなブックマーク日本をもっとダメな国だと思い危機感を煽りましょうこのエントリーを含むはてなブックマークもうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい このエントリーを含むはてなブックマーク」)には、必ず「いや、でも働きすぎて日本人の幸福度は低い」という反論があります。それに対する答えとして読んでいただけると助かります。
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フランスに来て思ったのは、やっぱりフランス人は怠け者だということです。1998年に政府の決めた週35時間労働制は、月曜日から毎日8時間働くと金曜日は午前中で帰宅できることになります。もちろん同僚は5時か6時で帰りますし、土日休日に働くことはあり得ません。24時間のコンビニはありませんし、日曜日に空いているスーパーもありません。だんだん分かってきたことは、フランス人は怠惰だからこんな社会になったのではなくて、怠惰でいられる社会を未来の理想として、意識的にこの社会を作り上げてきたということです。これを本エントリでは怠け者同盟の社会と名づけます。

サルコジ大統領はこの怠け者同盟の社会を働き者の社会に変えようとしていますが、反対者が多いです。

「日曜はダメよ」の仏店舗、営業解禁へ新法 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

フランスで、これまで原則として禁じられていた日曜日の店舗営業を、大都市や観光地で解禁する新法が国会で可決された。政府は年内施行を目指しており、実現すれば観光客も買い物や飲食がしやすくなる。ただ、「もっと働き、もっと稼げ」と旗を振るサルコジ大統領肝いりの新法には、国民の過半数が「ノン」と拒否反応を示しており、野党は徹底抗戦の構えだ。

怠け者同盟の社会は競争を抑制し負荷を減らす

競争相手の会社や同僚も35時間労働で、日曜日は労働禁止だということになれば、誰もが安心して働くことをやめられます。仕事を休んでいる間にライバル店にシェアを奪われることも無く、休んでいる間に同僚と差がつくことも無いからです。さらに競争を抑制すると良いのは、労働によって得られる成果が競争していた時とそれほど変わらない点です。競争が抑制されていれば、必死に働かなくてもライバル店に勝てる可能性は減りませんし、出世できる可能性も減りません。このあたりは、「競争の抑制によるソシアリスムの実現」にも書いてあります。

減った負荷を「幸福」へとまわす

エネルギー資源、人的資源、労働時間などの資源を投入して経済的利益を上げる競争において、競争を抑制することで減った負荷を本当に社会と個人を「幸福」にする要素に振り分けていきます。エネルギー消費は減れば減るほど好ましいし、余った時間は、例えば家族の団欒を増やし毎日一緒に食事を取るとか、著名な文学作品を読んで感性を養うとかといったことに振り分けます。

プロジェクトが遅れ気味だろうが、やらなくてはならないことが終わってなかろうが、ヴァカンスは必ずとります。それが権利だからです。だから、やらなくてはならないことが終わってなければ、ヴァカンスなので出来ません、と言います。言われたほうは、それならばしようがないとなります。まるでヴァカンスは聖域のようにして、他人にも仕事にも何にも絶対に邪魔させません。フランスにおいては、基本的人権とは教育を受ける権利、自由に発言できる権利、自由に宗教を選べる権利に加え、ヴァカンスを取る権利が含まれているという冗談がありますが、それぐらいのものです。フランスでは、エスカレートした競争は人々を幸せにしないという信念みたいなものを感じます。

怠け者同盟の社会を試験で例えると

怠け者同盟の社会を試験で例えると以下のようになります。大学入学試験などの熾烈な競争の下では、「四合五落(4時間寝た者が合格し、5時間寝た者が落ちる)」といったことが起こりえます。競争がエスカレートするため、ライバルたちより睡眠時間を削る必要があります。怠け者同盟の社会は、これを8時間睡眠しないものは試験を受ける権利を失うというルールを設定したようなものです。つまり8時間睡眠したもの同士の競争になるため、競争は抑制されたものになります。

どのように受験者の睡眠時間を確認するかという問題は残りますが、ルールがしっかりと適応されれば公平な競争が行われます。つまり、自由に競争した時と同様に、より努力したものや、より試験を解く能力がある者が合格することになります。

働き者が罰せられる怠け者同盟の社会

怠け者同盟の社会の問題点は、より働きたいものが働けないという問題です。怠け者同盟の社会内の人々は、労働にかける時間を少なくし、あなたの「幸福」を増やすことを義務付けられています。働くことが私の幸福ですという論理は認められません。なぜならこれは、怠け者同盟の社会の中では抜け駆けになってしまうからです。

つまり、ライバルがみんな8時間睡眠している中で4時間睡眠にするような卑怯な抜け駆けです。競争を緩和するための8時間睡眠ルールは、試験勉強をしたくてたまらないような受験生には、強制的な8時間睡眠は苦痛でしかありません。家族団らんや読書、音楽鑑賞による人生の充実を強制されます。怠け者同盟の社会は働き者を罰する発想で作られています。

全体の「幸福」を増やす方法としての怠け者同盟の社会

どのような社会を作り上げていくとしても全体の幸福を増大させることが最終的な目的となります。怠け者同盟の社会は、圧倒的大多数が怠け者のフランス人たちが幸福になるために作られています。小数の働き者が罰せられるのは、全体の幸福のために無視される問題点があります。しかし、この社会では「ニートの海外就職日記」に書かれているようなブラックな会社というのは、抜け駆けとして市場から退場を迫られます。

競争によって、全員が必死に働かなくとも、今と経済的にほとんど変わらない生活が出来て、競争以外に使う時間がある社会が未来の理想というのは、異論が無いでしょう。少なくとも、未来の社会を考えていく上で、全体の幸福を増加する方法として、怠け者同盟の社会というアプローチがあることを知っておく必要があります。

このブログでは、以下のエントリを予定しています。
  1. 怠け者同盟の社会のまとめ
  2. 怠け者同盟の社会は人類の未来(本エントリ)
  3. 怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段
  4. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス
  5. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本
  6. 怠け者同盟の社会の中で輝きを取り戻す日本
  7. 自由のスパイラルから脱出を目指す怠け者同盟
  8. 労働に対する社会の仕組みを試験に例える
  9. ベーシック・インカムよりも怠け者同盟の社会 このエントリーを含むはてなブックマーク
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Deauville, France
一つ前のエントリ「もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい このエントリーを含むはてなブックマーク」で「パスポートの威力」のくだりで不快感を持った方も多いかと思います。実際このくだりは最後まで文章に含めるか迷ったところでもありました。日本がうまくやっていると言うだけなら、「「世界にいい影響を与える国:ニッポン」を考える」や、「世界にいい影響を与える国:ニッポン」に書いていることの中のどれか取り上げれば済むことでした。しかし、結局は、エントリにある種の”どぎつさ”を演出するためにあえて加えておきました。

不快感を示された方、持たれた方は正しいと思います。人の価値は国籍、民族、宗教、さらに言えば受けた教育や人柄に関わらずみな同じだという世界の方が正しいと全員が納得できるからです。これは、異国に住む僕自身が一番信じたいことでもあります。フランスで住む上で、見た目がアジア人でも、片言のフランス語しかしゃべれなくても、フランス式の教育を受けていなくても、人としての価値は誰でも同じであると信じたいからです。

パスポートの威力

人は誰でもみな平等であるはずと思っていた僕がその命題を疑い出したのは、今から2年前、渡仏した2か月後のことでした。留学生達とお酒を飲んでいる席で、フランス国籍のことが話題になったのです。それが前のエントリの以下の部分に当たります。
「フランス国籍を持っていた方が何かと便利だから取りたい。今はヨーロッパの空港の出入りで面倒が多い」といいます。続けて、「日本のパスポートはフランスのパスポートと同じ威力があるから、お前には関係ないな」と言われました。
彼は同僚のパレスチナ人で、その能力も人柄も申し分ありませんでした。その彼が、以上のように言ったのです。さらには、「空港の検査でいつも個室に連れて行かれるのが耐えられない。フランス国籍は持てば便利だ」と言っていたのです。パスポートのpower(力)だかvalue(価値)と言っていたように記憶しています。

同僚なので同じように働いて同じように生活しているのに彼の目に見えている世界は、僕のものとはだいぶ違い衝撃を受けました。あまりの衝撃で、当時書いていた日記ではぼかして書いています→フランスで理工学: セーヌのほとりでピクニック。それでも、30分ほど続いたフランス国籍の話題が、遅れて参加したフランス人が来たとたんに終わったことなど、今でも鮮明に覚えています。

現実世界は平等ではない

人は国籍、民族、宗教に関わらず平等なはずなのにパスポートのpowerやvalueが違うなんて不公平じゃないかと考え始めました。でも考えてみればこの世界の仕組みなんて不公平にできていると思い当たります。ある者は生まれた瞬間から飢えに苦しむ運命にあったり、より良い生活をするための教育を受ける機会が得られなかったりします。さらに言えば、生まれながらにして、人類が脈々と築いてきた、水道、電気、ネットなどのインフラの恩恵を受けられない人もいます。

また、ある者は生まれた土地に石油が出るためにその利益で社会を高福祉にできたり、ある者は石油が無い国に生まれたために一生懸命に働く必要に迫られます。本当に平等な世界が実現すれば、石油や地球資源の恩恵は人類に等しく与えられるべきとも言えます。それに世界に重大な影響を与える決定を下すアメリカ合衆国大統領はアメリカ国民だけが選べます。これも不公平と言えば不公平と言えます。

国籍、国境をなくすのは現状では不可能

こう考えていくと、そもそも国籍や国境と言うのが不公平なものであるということに気づきます。多くの人が納得する「人はみな平等」という理念を満たそうとするなら、国籍のシステムは無くなるべきだと思います。もしくは少なくとも、人類全員が自由に国籍を選択可能にするぐらいはするべきでしょう。人類が十分に賢明だったら、将来はそういう方向に進むんだろうと信じます。しかし、現状ではこれは不可能です。どの国も養うだけの移民なんて受け入れたくないし、受け入れるとしても優秀な移民だけを受け入れている状態です。国籍を誰にでも解放するのは英断だと思いますが、僕が生きているうちには難しいような気がします。

これは、「おらのじっちゃんとおとうちゃんが耕した畑は、おらのもんだ。みんなで共有するなんてとんでもねぇ」と言うのに似ています。つまり、先人が努力のうちに切り開いた成果を、みんなで共有するのではなく、子孫である自分たちが独占したいという意志の現れです。個人の相続ですら子孫に受け継がれるのですから(税金分は国に取られてその国の皆で共有になりますが)、赤の他人の外国人に譲りたくないと言うことでしょう。国籍はその発想自体が排他的です。

そんなことを言ったって「人は平等だし、パスポートの威力に違いがあってはならない」という人は、国籍システムを壊す方法か、すべての国籍を全員に解放させる仕組みを考えてみてください。

背景に関係なく平等に人に接するのは最後の良心

人類が十分に賢明で国籍システムが無くなった暁には、後世の人は現在の人々のことを「排他的な国籍によって文明の恩恵を独占した野蛮な人たち」と考えることでしょう。国籍が排他的な仕組みであることは、比較的”良い”と言われている国籍を持つ人たちが感じていなくても、”悪い”国籍を持つ人は強烈にそのことを感じているはずです。不平等な国籍システムを認識せず、ナイーブに人はみな平等だと考えるのは無神経で、逆に相手を思いやれない弊害があるように思います。

個人の関係においては、国籍は関係ありません。国籍、民族、宗教、受けてきた教育にとらわれず、平等に接するべきだと思います。排他的なシステムで不平等に恩恵を得る者のいる現在の世界に生きる者として、それは最後の良心です。

追記:そういえば去年の12月に日本に帰った時にパスポートのことを茶化した歌が流行ってました。たいていの人は国籍の排他的システムに無関心なんだと感じました。
一時帰国中の雑感「矢島美容室」 (1/2)
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Paris, France
日本はもうダメだ論には何回か違和感を表明してきました→(日本はもうダメだ論と日本の優秀な人材このエントリーを含むはてなブックマーク日本をもっとダメな国だと思い危機感を煽りましょうこのエントリーを含むはてなブックマーク)。これらのエントリではいろいろな歴史の例を挙げて理論武装をしていますが、日本はもうダメだ論は読んだ瞬間から反射的に悲観的すぎると感じました。それは、ヨーロッパに住んでいる者としての肌感覚です。

自動車でも電化製品でもフランスでは日本製品は品質が良いという先入観があります。学校と研究所でお世話になっている3人の教授はみんなソニーのVAIOの最軽量モデルを使っています。この2年間の間に何回か買い替えていますが、いつもVAIOです。きっと気に入っているのでしょう。学生はもう少し安いPCを使っています。また、友人が自動車を買うと言う時に検討するのが、トヨタです。学生はお金がないので中古ですが、故障で余計に費用がかかるのは困ってしまうので、信頼性の高い日本車を選びたいと答えます。僕は旅が好きなのでフランスにいるうちにヨーロッパ各国をまわっているのですが、観光地に行った時に旅行者の持つデジカメとデジタルビデオカメラは少なめに見積もっても80パーセント以上は日本製です。

極東の島国である日本が遠くはなれたヨーロッパで信頼性を獲得して、日本製品をあふれさせています。EUは現在27カ国ありますが、どの国もこんな快挙を成し遂げている国はありません。これで、日本はもうダメだと言うのならば、ヨーロッパの27カ国はもう既に終わっていると言うことでしょう。ヨーロッパの国で多くの人がそう思っている国は無いです。控えめに見ても日本はうまくやっている方だと言えます。

日本人の能力と日本の努力の蓄積を過小評価している

日本がもうダメだと言う時はだいたい経済が取り上げられます。ヨーロッパの国々と比較するならば、日本経済は異常に絶好調と言えるくらいです。さらに言えば日本経済がもっともっと落ちぶれても日本は大丈夫です。150年前の開国以来、西洋の知恵を取り入れるようになってからの、たゆまぬ蓄積があります。水道網、電気、交通、ネットなどのインフラは世界最上位で、教育水準も高く、世界上位の科学技術を持つと言われています。僕の携わる高度交通システム(ITS)やロボットの研究では、技術調査というとアメリカ、EU、日本の技術動向を調べる習慣があります。いちおう今のところ、世界の3極のうちに入れてもらっているわけです。

フランス語をしゃべり途上国から来ている博士号を持つ研究者は、フランス国籍を取れる可能性があります。こういった研究者とフランス国籍を取るか取らないかの議論したことがあります。「フランス国籍を持っていた方が何かと便利だから取りたい。今はヨーロッパの空港の出入りで面倒が多い」といいます。続けて、「日本のパスポートはフランスのパスポートと同じ威力があるから、お前には関係ないな」と言われました。世の中は本当に不公平にできていると思います。日本も以前は今の位置にいたわけではなかったので、日本は長い努力の上に今の地位を得ていることも確かです。

インフラや教育水準、所得など平均的な国々と比べてとくに劣っているわけでもないのに、もうダメだと言うのは過去の努力を過小評価しています。

もしかして基準がアメリカなのか

On Off and Beyond: 海外で勉強して働こう」では、「日本はもう立ち直れない、ベストケースはフランス型」ときているので、フランスはもう終わった国の中でまだマシな国という位置づけなのかもしれません。日本がもうダメだと言う時は経済の話が取り上げられるので、日本より経済がすぐれている国と比べているのでしょう。フランスが終わったとするとヨーロッパは、全体的に論外ですかね。やはり比較対象は必然的に、著者の住むアメリカなのではないかと思えてきます。

しかし、アメリカと日本を比べるのはまさに論外です。フランスのユベール・ヴェドリーヌ元外相は、「今のアメリカの勢力は、大英帝国を遥かにしのぎ、ローマ帝国に比肩する(参照」と言っています。さらに同氏は1997年、以下のように言っています。

アメリカの帝国誘惑(The Imperial Temptation of America

アメリカは他の国が持ったことのないほどの資産をもっている:政治的影響力、ドル通貨の優位、通信ネットワークの制御、”ドリーム・ファクトリー”、新技術。ペンタゴンとボーイングとコカコーラとマイクロソフトとハリウッドとCNNとインターネットと英語とをすべて足し合わせたこの状況は殆ど前例のないものである。
The United States has assets not yet at the disposal of any other power: political influence, the supremacy of the dollar, control of the communications networks, 'dream factories,' new technology. Add these up-the Pentagon, Boeing, Coca-Cola, Microsoft, Hollywood, CNN, the Internet, the English language-the situation is virtually unprecedented.
今だったら、Googleとかも入れても良いかもしれません。とにかく、アメリカと比べるのは間違っています。日本がどんだけ努力しても、間違っても数世紀で追いつけるような差ではありません。まあ、目指す人もいないでしょうが。

同じ比べるならアメリカの一州と比べましょう。例えば、一番経済の活発なカリフォルニア州はイタリアの国内総生産に匹敵するそうです(アメリカの各州はGDPでいうとどの国に相当するか? - IDEA*IDEA)。カリフォルニア州(総面積が日本とほぼ同じ、人口が3分の1)の人口を3倍して、アメリカから切り離して太平洋の端っこに浮かべて、日本のように資源を無くして、英語をしゃべれない人が住んでいて、敗戦国からスタートすると仮定してみましょう。国語が英語でなければ、優秀な人材の流入はかなり少なくなります。産業で繁栄し世界の第4極目を創り出せたら奇跡だと思います。こう考えると日本はうまくやっている方だと思えてきませんか?

楽観論の2つの問題点

日本はうまくやっていると言うことの問題点はおそらく2つあります。一つは悲観論は問題を人々に認識させる効果があるのに対し、楽観論は現状で良いという雰囲気を作るので現状が改善されません。この辺りは、日本人はなぜ悲観論が好きかこのエントリーを含むはてなブックマークで書いてあるのですが、日本人は悲観論によって目標がクリアになって、現状を改善することができると考えているのではないかと思います。

もう一つの問題点は、楽観論を言う人が、ノーテンキで馬鹿に見えるという点です。悲観論は現状を憂うという知的な感じがするのに対し、楽観論はなぜか何も考えてないように聞こえてしまいます。必要以上に悲観論が増える理由にもなります。

日本はうまくやっていると言ってもいい

このエントリで、1.現状を改善する策を何も生まない、2.言う人が馬鹿に見えてしまうという2つの問題を抱える楽観論をあえて書いたのは、理由があります。問題を認識するには悲観的意見も必要ということを踏まえながらも、あまりに行き過ぎた悲観論は有害だと思うからです。例えば、もっとダメな国だと思い危機感を煽りましょうで挙げたエントリの中には、日本がうまくやっていくことを諦めたようなエントリが散見されます。実際はまだ諦めるには早いのに、問題に立ち向かうことを諦めるような悲観的ムードは有害です。それで、たまには楽観的に捉えてもいいかなと思った次第です。おそらく、実際の状況と言うのは、最悲観論と最楽観論の間にあるのでしょう。
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追加:「パスポートの威力」について補足しました
人は平等であるはずの世界において現実は平等でない

追加2:「いや、でも働きすぎて日本人の幸福度は低い」という反論に対する考えを書いていこうと思います。
怠け者同盟の社会は人類の未来
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Versailles, France
フランス語のウェブページを読んでいて、ちょっとした単語の意味を調べるのに手持ちの電子辞書を使うのはちょっと面倒くさいです。マウスをかざすだけで簡単な意味を表示してくれる機能があれば、かなり便利です。

英語だとGoogleツールバーのGoogle translateが便利です。これと似たような機能をもつFirefoxのアドオンがあります。以下のサイトで紹介されています。


最速で辞書が引けるアドオン「FireDictionary」が便利すぎる : ライフハッカー[日本版]

FirefoxアドオンのFireDictionaryf2jdicの 組み合わせでこれを仏和辞典でもできます。こんな感じで、マウスカーソル下のフランス語単語の日本語訳をサイドバーに表示することが出来ます。ざっと読みたいだけの文章だったらサクサク読めて快適です。また、iKnowのサイトに登録されている単語は発音を音声で確認することができます。

それに加え、FireDictionaryの機能で、辞書を引いた単語を記録できます。この記録を使うと、その単語が使われているwebサイトと前後の文脈と共に記録されるので、あとで単語を覚えるときに自然な用例と共に覚えられます。


仏和辞典のインストール手順

Firefoxを使える環境で あれば、何でもインストール可能です。ちなみに、インストールした環境は、Mac OSX 10.4.11 + Firefox 3.0.11 + FireDictionary 0.9.16です。

以下手順です。
  1. FireDictionaryのサイトの手順に従って、FireDictionaryをインストールする。ここで英和辞典GENE95でうまく動いているか確認します。
  2. ICHIROさんが作成したf2jdicをダウンロードします。
  3. f2jdicの"fr.dic"をPDIC DIC形式からPDICテキスト形式に変換して、"fr.txt"で保存。変換にはDiDi Dictionary Viewer for Mac OS Xの辞書変換ツールを使わせていただきました。"fr.txt"は必ずUTF-8形式で保存しましょう。変換したファイルをココに置きます。
  4. FireDictionaryの辞書の追加機能を参考にして、FireDictionaryに"fr.txt"を追加しましょう。成功すると「To activate the chosen dictionary, restart Firefox prease.」と出ます。
  5. Firefoxを再起動し、マウスカーソルを単語に当てると初回だけインデックスの作成が始まります。以下のような警告に焦らず、「Continue」を押し続けます。

    FireDictionary は PDICText 形式の辞書のインデックス作成機能をサポートしています。PDICText 形式の辞書登録後初回使用時に、インデックスが未作成であることを検知し自動作成を開始します。インデックスの作成には非常に時間がかかるため、 Firefox は処理が止まってしまっていると認識し、「警告:応答の無いスクリプト」ダイアログを表示しスクリプトを停止するように促してきます。インデックスの作成 を完了するためには「処理の続行」ボタンを押して処理を継続する必要があります。何度も聞いてきますので、何度も「処理の続行」ボタンを押してください。
  6. 以上です。フランス語のページを開き、マウスをかざしてみてください。
難易度の高い単語は辞書に無いために引けなかったり、動詞は不定形しか引けませんが、手軽さが嬉しい辞典です。

関連:フランス語の勉強の仕方(まとめ)
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Paris, France
世の中には片方の意見が一方的に正しいなんてことは滅多にありません。対立によってどんなに悲劇的なことが起こっていても、どちらかが悪くてどちらかが正しいなんてことはありません。例えば、あるフランス映画で扱われた米軍統治下のイラクにおいて少女がトラックにひき殺された事件がありました。イラク側の反抗者はアメリカの侵略に反抗するため、道路に少女を立たせておいたのです。米軍のトラックが少女の前で止まれば容易に襲撃できます。そして、襲撃を恐れるトラックは道路に立つ少女の前でブレーキでなく、アクセルを踏んだのです。イラク側はこの様子をビデオに収めることで、アメリカの非道を糾弾ででます。イラク抵抗者にはアメリカの圧倒的な武力で非戦闘民までもが殺され、支配されそうになっている中で、唯一の可能な抵抗だったかもしれません。アメリカのトラックの運転手は立ち止まれば自分が殺されるかもしれなかったのです。信じられないような悲劇があっても、だいたいの場合、どちらにも正しいと信じる論理があるものです。

西洋メディアと異なる中国の言い分

常に西洋のメディアに触れている日本人は、西洋メディアの報じる中国の言論封殺、少数民族の反乱の武力制圧などの強権支配体制を非難します。
新疆ウイグル「純粋な悪魔はいない」:日経ビジネスオンライン

5日、新疆ウイグル自治区ウルムチでウイグル族による暴動が起きた(「7・5」事件)。7日には、ウイグル族の行動に不満と怒りを爆発させた漢族が反撃に 出た(「7・7」事件)。イタリアを訪問中で、G8首脳サミットに出席予定だった胡錦濤国家主席は異例のドタキャンを決断。それはウイグル情勢が「民族対立」の様相を呈したからにほかならない。
しかし、中国側には中国側の言い分があったりします。このエントリでは友人の中国人が中国を擁護していたときの論理を紹介しようと思います。議論は完全に友好的な雰囲気で行われていました。フランス人は中国人が気分を害さなかったか気にかけていて、中国人は意見を披露する場を得たことを感謝していました。 まず、彼の言い分は、「欧米メディアは大国化する中国が分裂することを願っている中国の敵」、「ウイグル族による暴動は単なる反社会的行為で、欧米メディアが特別に騒ぎ立てているだけ」という中国当局の言い分を踏襲したものでした。

バラバラの中国の苦難

これだけだと政府のプロパガンダや政府系メディアに踊らされている人のようですが、彼の中に大きい中国が中国国民の利益という確固とした信念みたいなものがあったのです。まず、彼は中国が一つにまとまらないことで分割支配され、苦境に陥ったことを丁寧に説明しました。
1938年以降、中国大陸では、日本の支援を受けた汪兆銘政権、アメリカとイギリスが支援する国民政府、ソ連が支援する共産党による三つ巴の戦闘が展開されるようになっていた中華民国の歴史 - Wikipedia)”
また、彼は同じような例はヨーロッパでも見ることができると説明します。ドイツはフランスなどより遅れて統一されたため、バラバラになっていた時には苦難の連続でした。統一されたドイツは強国と伍していく実力を得たという見方です(ドイツ統一 - Wikipedia)。

さらに、中国が分割するようなことがあれば、多くの国に分かれて各々が国益を追求しあって対立した、第一次世界大戦前夜のヨーロッパのようになってしまうということも言っていました。

食い違う言い分

1. アメリカ、ソ連、日本に分割支配された歴史、2. 統一後のドイツの歩み、3. 第一次世界大戦前夜のヨーロッパと、どれも統一の中国が中国国民を利益するという例です。だから、中国をバラバラにするような活動は政府として全力で潰すのが中国国民のために必要だと言う結論が導かれます。また、中国をバラバラにするような活動は外国の勢力が力を貸しているという、陰謀論も素直に聞ける土壌が出来上がります。どれも政府の強権支配を正当化するプロパガンダだと言うことは簡単ですが、本気で中国が歴史から大きい中国が国民の利益ということを学んでいても少しも不思議ではありません。この解釈は、ずいぶんと中国の人口の90パーセントを占める漢民族に都合の良い解釈で、他の56少数民族はどう考えているか気になります。

西洋メディアは中国の人権蹂躙には厳しい態度ですが、中国から見ると別の見方があることが分かります。中国側の言い分はただの屁理屈ではなく、論理は通っています。言い分が食い違ってもどちらかが正しいなんてことは言い切れないものです。西洋メディアの中にも中国の言い分にも耳を貸したものがあるのでしょうか?中国の言い分も知っておく必要があります。
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戦争で読む「ローマ帝国史」 建国から滅亡に至る63の戦い (PHP文庫)小さな羊飼いの集落から、地中海世界を制覇する古代の超大国にのし上がっていったローマ帝国の歴史を戦争を通じて解説している本です。”ローマ期とは神話時代である紀元前八世紀から、西ローマ帝国の滅亡する起源五世紀までの1200年余りにかけて(p.3)”のことです。友人に「塩野七生『ローマ人の物語』|単行本|新潮社」を勧められたのですが、時間が無くて読めず、一冊で完結する本書を購入しました。「ハンニバル」、「カエサル」、「クレオパトラ」といった歴史上の人物が織り成す物語を再確認できたのは、楽しかったです。

現在のEU各国のうち、ドイツの一部を除いてほとんどがローマの版図に組み入れられていました。そればかりか、トルコや地中海を挟んだ北アフリカも版図に組み入れています。ヨーロッパ諸国がある程度、文化と歴史を共有する元となりました。120年時点のローマ帝国の版図が最大になった時の地図を張っておきます。この頃の皇帝は、五賢帝と呼ばれています。
読んでみて、ローマは最強の帝国だった時でもちょくちょく戦争に負けていたんだな、と知りました。対戦相手の戦象のあまりの大きさに慌てふためいて、何度もやられたり、皇帝自らが戦いで敗死したり、とらわれて相手側のリーダーの奴隷にされたりと順風満帆ではありません。それでも総合的に見ればローマ帝国はその時代に一番強かったため、どんどん版図を拡大していきます。カルタゴのハンニバルに苦しめられてから、3度にわたるポエニ戦争に勝利してカルタゴを滅ぼします。
カルタゴはハンニバルがローマを今一歩まで追い詰めた第二次ポエニ戦争後、生殺与奪をローマに握られた恰好で存在した。しかしながらその商業力は抜群で、軍事でなく商業で地中海の覇権を握った。(p.106)
カルタゴ元老院はローマに屈服していたから、貴族の子弟300人を人質としローマに送る、との要求を呑んでしまう。次いでローマは兵器や装備の引き渡しを要求したので、これまたローマ軍に従った。そうしたところ今度は海岸より離れ、奥地へ10マイル移れという無理難題を吹っかけられた。流石にこれはカルタゴ元老院も、自殺行為だと反発を見せた。つまり丸裸にされてから本当の狙いを突きつけられたのである。(p.106)
カルタゴは軍隊が負けた後も、ローマに賠償金を払いつつ繁栄を続けます。それを危険視したローマはカルタゴに、いちゃもんをつけて滅ぼしてしまいます。強いものが勝つという歴史の常を再確認するようです。本書は、序盤で、すこしローマに肩入れしすぎているような印象を持ちました。例えば、カルタゴは以下のように描かれています。つねに勝者によって語られる歴史で、敗者の印象は後から付けられた部分もあるでしょう。本来は、戦火を交えた、どちらの勢力に善悪は無いはずです。本書にはそのあたりを慎重に描いてほしいように感じました。
カルタゴは歴史的にみても、極めて人間性の悪い国家である。敗北した軍司令官は処刑し、国民相互間の不信感も根強い。その上に嫉妬心はどの民族より激しかった。古来から「カルタゴ」という言葉は、裏切りを意味すると言われたほどだ。(p.81)
この本では目次の情報は探しても見つからなかったのですが、代わりにGoogle Book Searchで始めから85ページまで読めるようになっていました。下のウィンドウで⇒のボタンをクリックしていくと目次のページも読めます。
戦争で読む「ローマ帝国史」 建国から滅亡に至る63の戦い (PHP文庫)
柘植 久慶 (著)

ローマの歴史は“戦争の歴史”である——。ティベリス河畔の小さな羊飼いの集落から、地中海世界を制覇する古代の超大国にのし上がっていった事実は、まさにそれを裏付けていると言える。本書は、神話時代に遡る「建国当時の戦い」から、西ローマ帝国が滅亡する「ヴァンダル人のローマ征服」まで、ローマ帝国1200年余りの歴史を戦争の視点から解説していく。国家崩壊の危機に直面したハンニバルの侵攻(「第二次ポエニ戦争」)、三頭政治から後の帝政時代へと道を開いた「カエサル対ポンペイウス」、五賢帝の一人としてローマの版図拡大に力を注いだトラヤヌス帝(「第二次ダキア遠征」)、帝国の4分割による「帝位争奪の内戦」など、取り上げる主な戦争は63に及ぶ。また、その間に起こった戦術の変化や武器の進歩、軍団の改革についても、戦場経験をもつ著者独自の視点から紹介。ローマの命運を決した戦いの数々がここにある。▼ 文庫書き下ろし。(セブンアンドワイ ヤフー店 - Yahoo!ショッピング)
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Paris, France
7月14日はフランスでは「14 Julliet」といって一番特別な祝日になっています。バスティーユ監獄を襲撃した日を記念した行事で日本語ではなぜかパリ祭と訳されています。朝からシャンゼリゼ通りで大統領の前で軍事パレードが行われるのですが、最近は友好各国の部隊も招待されるようになっています。例えば、去年は初めて国連平和維持活動(PKO)に従事している日本の自衛官が参加しました。この話を同僚とした時に、遠くの国からも参加があることにかなり驚いていました。

フランス生活情報 フランスニュースダイジェスト - 自衛官が仏革命記念日パレード初参加へ - 7月11日
フ ランス革命記念日の14日にパリのシャンゼリゼ通りで行われる恒例の軍事パレードに、国連平和維持活動(PKO)に従事している自衛官4人が参加するこ とが10日分かった。パリの日本大使館や日本防衛省が明らかにした。防衛省によると、同パレードで自衛官が行進するのは初めて。(共同)
他国の軍隊を7月14日に呼ぶ試みは、少し前から始まったようです。同僚によると、はじめはドイツの軍隊を招待するところから始まったそうです。これは、はじめはフランス人に根強い過去のトラウマから、心情的には難しかったそうです。ドイツ軍のシャンゼリゼ通りにおける軍事パレードは、第2次世界大戦のパリ陥落を強く思い出すからだそうです→ナチス・ドイツのフランス侵攻 - Wikipedia

ドイツ軍の侵攻により占領下に置かれ祖国を失ったことを嘆いているパリ市民

エッフェル塔を背後にしたヒトラーと親衛隊
第1次、第2次世界大戦と常に敵同士だったフランスとドイツは、相手の軍事力によって荒廃し、親族のうちにも相手国に殺された人々も多かったでしょう。恨みの連鎖を断ち切るのは難しかったでしょう。相手の国を叩けば自国が繁栄するというゲームのルールを、相手国と共に繁栄するルールに転換するのは、よほどの根性が必要です。紆余曲折ありながら、結局はドイツとの和解の道を選んだフランスはやはり正しかったように感じます。

仏独の和解


1984年9月22日、第一次世界大戦の激戦地の近くDouaumontにて(参照














仏独の和解がEUの基礎を作り、EUからヨーロッパの各国が利益を得るという未来を描いた仏独の政治家と、その利を悟った仏独の有権者は賞賛に値すると思うのです。そして、EUを指導すると自認するフランスは、仏独和解を世界にアピールすることに力を注いで来ました。それが、7月14日の軍事パレードにドイツも招待すると言う行動につながったんだと思います。フランス人はドイツを許せないという感情と未来の繁栄のためにドイツの力が必要だと言う論理の折り合いをつけてきた歴史があります。

仏独和解と日米和解の違い

対戦国との和解によって、戦後の繁栄をつかんだという点では日本にも類似しています。しかし、日米の協調は、感情面を未来志向の論理で押さえ込んだ独仏のような和解でないような気がします。東京大空襲や原爆投下の論理的な解釈を引っ込めて過去を水に流し、アメリカとの関係を最重視してやってきたのが戦後の日本でした。そのためには、割り切れない感情を論理で解決するのではなくて、割り切れない感情をアメリカが好きと言う感情で上書きしてきたのではないでしょうか。実利本位で物事を解決できる日本人らしい解決方法のように感じます。

その結果、フランスはドイツと共に繁栄したにもかかわらず、フランス人でドイツが好きと言う人は驚くほど少ないのです。2年ほどフランスにいますが、聞いたことがありません。僕がドイツに旅行したときには、「なんで?」と聞かれました。「オクトーバーフェストだよ」というと納得しましたが。他の留学生もドイツに行くときに「なんで?」と聞かれていて、「姉がいる」と答えていました。少なくとも、フランス人はドイツが好きという感情で和解をしたわけではないことは確かです。翻って日本はアメリカが大好きな人であふれています。論理で感情を克服した仏独と、感情自体を変えた日米の和解の違いがあると思います。
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おじさん、語学する (集英社新書)おじさんがフランス語を一から学んでいく過程が描かれている物語です。著者は言語教育を専門とする先生なのですが、物語のおじさんは真面目なサラリーマンで語学の経験はほとんど無い設定です。フランスに嫁いだ娘が生んだ孫に会いにフランス語を学ぶことになりました。普通の語学書とは違うこの語学の習得過程を物語として描くことにしたのは、語学学習のモチベーションにスポットを当てるためだったそうです。
こうした物語的記述法を選んだのは、語学を習得するために欠かせない心の風景や一瞬の機微を生け捕るためでした。(p.194)


語学の成否を決定する一瞬の機微というのは確かにあるような気がします。うまくしゃべれて気をよくしたり、あまりの難しさに気が遠くなったりと、フランス語を学習した当初は気持ちが行ったりきたりしていました。この本では気持ちの持ちようの一例を見せてくれるという点で、他の本には無い良さを提供していると思います。
じつは、語学学習の成功を左右する勘所は、つねに心の風景や内省の問題として立ち現れます。世の指南書は、一般原理や法則を教えてはくれますが、それを個人に当てはめ役立てるときに欠かせない気働きや気持ちの持ち方まで明かしてくれるわけではありません。(p.195)
僕がフランス語を勉強したときには幸いにもモチベーションが途切れなかったこともあって、比較的うまくいったと思います。一つモチベーションに関わる話で思い出すのは、チームの雑用を引き受けてくれるおじさんが言った一言です。おじさんは研究者や技術者ではなくてチームの機器の管理などをやってくれていて、あまり英語がしゃべれません。ある日、「3ヶ月でそんなにしゃべれるようになったんだね。さすが博士の学生はすごいね~」と言われて、うれしかったので覚えています。おじさんは博士課程の学生のことをあまり知らないと思いますが、頭がいいので語学の上達も早いと思ったようです(実際は毎朝3時間、誰がやっても多少の上達はするぐらいの勉強をしていました)。これを聞いて僕は、語学が上達すると博士課程としての能力も高いと見られるのか、これはラッキーだなと感じました。また、逆に上達しないと博士課程の学生としての能力も同様に低く見られたりするのかなと、絶対に上達をやめられないと感じました(もちろん、実際に博士学生の進捗を評価する人は、フランス語の上達は考慮しません)。

本書では、主人公の気持ちの動きと起こった現象に対して説明が加えられています。最初にフランス語が違和感なく聞こえた瞬間はこんな感じで描かれています。あるあるって感じでした。
思えば、頭の中にフランス語回路がプリントされつつある、と初めて感じたのは、「イレタラガール」というフランス語を聞いたときだった。「入れたら、ガール?」なんじゃ、それは?そのせつな、それは、「イレタ ラ ガール(彼は駅にいる)」というフランス語になった。フランス語に聞こえた瞬間、日本語の妙な連想は跡形もなく消え、なんの違和感も残らなかった。(p.121)
おじさん、語学する (集英社新書)
塩田 勉 (著)

第1章 発端
第2章 学ぶ動機と助走
第3章 会話の生がやりたい!
第4章 一歩踏み込む外国語会話
第5章 いざや本番、真剣勝負
第6章 本書の方法論

外国語習得の成功には、他人に頼らず自前の流儀を編み出してゆく試行錯誤や自己点検が何よりも大切。なぜなら、外国語を学ぶということは、日本語の思考回路のスイッチを切り替えて生きることを意味するからだ。自分に合った方法ならば無理がないから続けられる。—どこにでもいそうな語学苦手人間を主人公に仕立て、ゼロから出発して失敗しながら工夫を重ね成功の道筋を発見してゆく物語の中で、どうしたら挫折せずに外国語を習得できるのか、そのきっかけと学習法、成功を左右するポイントを懇切丁寧に指南する。これから外国語を初めて学ぼうとする人、久しぶりにやり直そうとする人に最適。
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Paris, France
日本はロボットで少子化問題を解決しようと思っているというのは、フランスのメディアでもたまに触れられることです。日本と言えば、漫画・アニメ・ロボットだと思っているフランス人の日本に対するステレオタイプと、少子化問題が安易にくっついた無知な意見か、冗談だと思ってました。最近複数の日本通がこの話を真面目に話していたので、ちょっと紹介します。ちなみに話を聞いた2人はロボット工学科の研究員です。

フランス人の考える日本人のステレオタイプ

まず、日本とロボットはかなり密接なつながりで語られることが頻繁にあります。つまり日本にはロボットを受け入れる素地があると言う事です。以下が日本と西洋のロボットに対する捉え方の違いです。

日本はロボットとマンガの国である(Le Japon)
西洋では創造主が人間を作ったように、人間がロボットを作るということが受け入れがたいことであるそうです。それに引き換え、日本ではおおらかにロボットを制作すると説明されています。平然と(sans complexe)、遊び心で(ludique)、超然と(détaché)、恐れなしに(sans cette peur)と説明されます。
フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
・トヨタやホンダ等のロボットへの投資
・欧州はキリストの一神教で、人間のみ神につくられた考え、仏ではロボットを否定的に捉えがち(雇用も減るし)であるが、日本は多神教の国で虫や物まで魂が宿るとかんがえるから、日本人はロボットが人間を代替しても悪いことをしているという罪悪感がない。

ロボットを用いた少子化対策

ロボットを受け入れる国と言う日本のステレオタイプと、現在日本が直面している少子化という問題が安易に結びついた(ように見える)説明です。

フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
人口は減る、高年齢で労働者がいなくなる、でも移民は嫌い、このような日本は、これからどのように乗り切るのであろう?高年齢者採用か?あるいは方針変えて移民歓迎か?ロボットが代替するか?もしくは、奇跡的な国家戦略が今後生まれるのだろうか?
人間の仕事をロボットにやらせると言っても、そうは簡単じゃないと思うのです。コンビニのバイトをロボットにやらせることにしたとしても、弁当、飲み物、チューインガムをつかんで、バーコードで読み取り、お金を受け取ってお釣りを渡す動作だけ考えても、相当困難そうです。さらに、客の情報を入力し、客の要望を聞くところまで入れるとさらに複雑になり、仕入れた商品を棚に移す作業や整理する作業もあります。いくら日本人がロボットを受け入れる素地をもっているとしても、ロボットにコンビに流通のトラックを運転させたくはありません。ちょっと考えただけでも、難しいと分かるだろうと言いたくなります。上の引用は、しょせん他人の国の問題として深く考えていないといわざるを得ません。

それでも日本はロボットで少子化問題を解決すると言い張るのです。それは、移民を受け入れることに対する抵抗が根拠でした。日本人は移民を受け入れるくらいなら、10倍高価でもロボットを選ぶと言っていました。そしてロボットをいち早く産業化して、輸出し出すのはそんなに先のことじゃないというのです。これは、どうなんでしょう。10倍高価でも移民よりロボットを選ぶというのは現時点ではほとんど正しいといえるかもしれません。この時代の日本人の考え方が大きく変化していくこともありえるので、なんとも言えません。

フランス人は本気でそう思ってるのか

やはりフランス人に取っては、遠い国の遠い未来の話だと思って、細かい想像力が働いていないように感じます。ロボット工学を研究していて、日本通であっても日本人のマインドや現在の日本の空気みたいなものを感じるのは非常に難しいからです。それでも彼らはフランス人が考えもしないようなことを、日本人がやらかす期待みたいなものを持っていると思います。

例えば、資源の無いアジアの国が敗戦後に復興した例や、主立った産業が無かった明治期の日本が大国になっていく過程などを思い出しているのかもしれません。アメリカでもドイツでも関税で自国の産業を守りつつ産業大国になったのに、明治期の日本は、産業も無く列強に関税の自主権を封じられていました。普通なら関税障壁なしに列強の製品が流れ込んで産業が壊滅するはずでした。どうやって劣勢を跳ね返して大国の仲間入りができたのか分からないほどの奇跡に近いことのように思います。

”フランス人が考えもしないようなことを、日本人がやらかす期待みたいなもの”が正しいかは分かりませんが、それぐらいの奇跡に近いようなことが僕が生きているうちにも起こらないとは誰にも言えません。”専門家「少子化対策はもう間に合わない」痛いニュース(ノ∀`))”とか、”国を挙げて子育て支援をするか、労働市場をフレキシブルにし移民を受け入れるか、このどちらかを行わずに少子化を食い止めた先進国は歴史上に存在しない世界級ライフスタイルのつくり方 - さらに少子化を考える)”と言われていますが、日本が今後どんな解法を見つけていくのか、楽しみな気もします。

付け足し
”フランス人が考えもしないようなことを、日本人がやらかす期待みたいなもの”関連では、フランス語で爆弾テロのことをkamikazeと言ったりします。”普段はおとなしくて勤勉なのに、キレると何をしだすか分からないとクレイジーなやつと思われているかも知れません”→フランス語”Kamikaze”について考える
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Paris郊外, France
パリに来て2年経つのにこのイベントは行ったことがなかったのです。去年はパリでコスプレの集団を見て、ジャパンエキスポが開催されていると気づいたので、予定を立てられませんでした。今回は同僚が情報をよこしてくれたので、事前に計画して行くことができました。友人を誘って朝の10時から行ってきました。

フランスに来てマンガが流行っていることにはびっくりしましたが、いまいちどれぐらいの熱気なのかは掴みづらいところがあります→[まとめ] フランスと海外のマンガ人気。というのもマンガは趣味の領域なので、知っているフランス人はものすごく知っているけど、知らないフランス人はドラゴンボールしか知らなかったりします。ジャパンエキスポの熱気も伝え聞いてはいましたが、実際のジャパンエキスポの熱気は行ってみないと分からないと思っていたので、行ってみたいと思っていました。

ジャパンエキスポとは?

ジャパンエキスポの概要によるとこんな感じだそうです。
ジャパンエキスポは毎年7月の第一週末にフランスで行われる、漫画とアニメを中心に日本の文化をテーマとしたフェスティバルです。1999年に立ち上げられてから年々成長し、2008年には13万4千人以上の来場者の記録でヨーロッパ最大の日本専門イベントになりました!

観客数の増加により、会場の規模は大きくなり、テーマも多様化しました。今は漫画やアニメ以外に、日本の音楽、ファッション、ビデオゲーム、スポーツ、そして伝統文化、風景などを紹介しています。
今年は15万人ぐらい来場しそうな感じだそうです。パリ周辺だけでも1000万人の人口がいるので、多いと取るのか少ないと取るのかは分かれるところかもしれません。

会場まではものすごい混雑

サンミッシェルから乗ろうとしたところ、RER B線は封鎖されていて駅員には会場に行く方法は無いといわれてしまいました。あきらめかけていたところ、友人から北駅からだったら行けるかも知れないと聞かされました。北駅はものすごい混雑になっていました。日本の満員電車を再現するかのような状況です。クーラーも無く他人と密着状態の北駅から会場までの30分ぐらいは本当につらかったです。フランス人達はめったに無い状況だからか、不平をいいながらも見知らぬ同士に連帯感が生まれていたように感じました。


会場前の列も混雑

会場を取り巻くように列が作られています。そして、会場前の施設で迷路のようにぐねぐね歩かされて。やっと到着しました。



会場の様子

メディアに紹介される場合や、ブログに紹介されている場合はコスプレの人が多いのは当然ですが、多くの人は普通の格好をしているように感じました。会場で買ったものを身につけている人は多いのですが、完璧にキャラになり切っている人たちは5〜10%ぐらいでしょうか。意外にも日中韓のアジア人はそれほどいなかったように感じました。




コスプレのレベルは高い

レベルの高いコスプレがたくさんいます。ナルトの人気が高いように思いました。








マンガ

マンガは本屋に行けばあるものなので、会場で買う意味はよくわかりません。サイン会などがあったようです。



ゲーム

最新のゲームがプレイできるようになっていました。



同人誌

1〜2ユーロで描いたマンガを販売していました。実演もしていて、絵がすごくうまかったです。同人誌を購入するマンガファンの裾野の広さはあるんでしょうかね。


雑貨、ファッション

輸入雑貨の販売です。



武道

合気道、柔道、薙刀、木刀の実演と指導が行われていました。あとなぜかタイ王国の武道も披露されていました。


プラモデル

実演と販売です。


着物

着物ショーが行われていました。会場に着物を着てきている人も少しいました。


たこ焼き

おいしそうでしたが、列が長くて断念。日本の食べ物は2、3店舗しか無くてちょっと残念。ほとんどの人たちは、食事は日本食じゃなかったと思います。僕たちもサンドイッチを食べました。


NOLIFE

フランスで日本文化を紹介する番組を制作しているNOLIFE。本ブログでも同僚に教えてもらって、ブログ記事にしました→フランスで日本文化を紹介する番組『NoLife: Tôkyô Café』。Tokyo Cafeのレポーターのブログは、たまに見させてもらっています→Mme PiLOT 酒班長  〜酔いドルJournal 〜。僕がNOLIFEブースに行った時はものすごい人気でした。



東京ITニュース JAPAN EXPO Paris






その他

今年のJapan Expoについてのブログ記事です。
関連:
[まとめ] フランスと海外のマンガ人気
追記:
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