人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)
「痛くない注射針」で有名な岡野氏の江戸っ子調の語りの本です。「世渡り上手」というと日本語ではどちらかというとネガティブなイメージなので、タイトルは良いイメージにはなりにくいかもしれませんが、正論を語っていると感じました。自分が正しいと思っていることを自信を持って貫き通している著者の意気込みが伝わってきます。世渡り力を推奨する一方、技術を軽視しているわけではありません。最初のページにこう断ってあります。
たしかに技術、腕は大切だし、それがなきゃ話にならないよ。でも、それと同じぐらい大事だと自信を持って言えるのが「世渡り力」なんだ。どんなにいい腕を持ってても、それだけじゃダメ。「世渡り力」がなきゃ、仕事も人生もゼッタイうまくいかないよ。(p.3)


著者は隠し立てをしないで、何でも素直に語る性格なようで、凡人だったら言いにくいようなきわどい処世術も語ってくれているのが、面白いです。人を見下してくる相手や、嫉妬や皮肉屋をやり返す方法などは、普通の日本人は語るのが難しいような内容だと思います。なんでもオープンに語れる著者が語ってくれるのは、感謝したいです。例えば、「商売の一番のポイントは他人を儲けさせることだって、俺は思うね。(p.22)」というのは、普通の言い方ですが、「お金を惜しんでたんじゃ、情報収集だって出来ない相談だ(p.22)」と、接待についても以下のように率直にわかりやすく、説明されます。
「今日は楽しかったな。岡野のおやじ、つきあうとおもしろいじゃないか。」そう感じてもらえれば十分なんだよ。釣りでいうコマセ(撒き餌)を、「こんだけ撒いて鯛が三枚上がらなきゃ、元は取れないな」なんて考えて撒くやつがいるかい?釣果は二の次、その場は損得抜きで、剛毅にパッと撒いてこそのコマセだろ。(p.23-24)
接待をコマセに例えるあたりが、率直すぎる気もしますが、自分の知識を惜しむこと無く語っていると感じます。また、自分をとんでもなくツイている人間だと信じているようで、以下のように書かれています。
不思議なことに、ツキっていうのは周囲の人にも波及するんだよ。実際、俺と縁が切れた会社も人間も、たいがいダメになってる。反対に長くつきあっている会社や人間には、いいことが起きてるんだ。そんな俺自身の経験からいうんだけど、絶対、ついている人間とつきあわなきゃダメだな。(p.43)
その理由は、運がいい人間は見えないところでそれだけの事をしているからで、そこから学べる事があるからだそうです。確かに納得ですが、「俺と縁が切れた会社も人間」といわれた側からすると、たまったもんではないかもしれません。これだけ率直に語ってくれた事には感謝しきりですが、赤裸々に語りすぎて彼の周りに敵が増えないか心配になってしまいます。こう思ってしまうあたりが、こういった率直な本が出にくい原因で、この本の価値になるのかもしれません。
人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)
岡野 雅行 (著)
1章 “おいしい情報”を手に入れる「世渡り力」
2章 人を引き寄せ、動かす「世渡り力」
3章 自己演出で評価を上げる「世渡り力」
4章 仕事の“敵”から身を守る「世渡り力」
5章 遊びから最高のアイデアを生むコツ
6章 どこでも生きていける「腕」の鍛え方
「痛くない注射針」で有名な世界一の職人は「人・情報のマネジメントをする“世渡り力”がなきゃダメ」と説く。将来性ある技術を見極めるために大企業から情報を取る方法など、スキルを最大限生かす「世渡り力」の鍛え方を初公開。
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人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)
「痛くない注射針」で有名な岡野氏の江戸っ子調の語りの本です。「世渡り上手」というと日本語ではどちらかというとネガティブなイメージなので、タイトルは良いイメージにはなりにくいかもしれませんが、正論を語っていると感じました。自分が正しいと思っていることを自信を持って貫き通している著者の意気込みが伝わってきます。世渡り力を推奨する一方、技術を軽視しているわけではありません。最初のページにこう断ってあります。
たしかに技術、腕は大切だし、それがなきゃ話にならないよ。でも、それと同じぐらい大事だと自信を持って言えるのが「世渡り力」なんだ。どんなにいい腕を持ってても、それだけじゃダメ。「世渡り力」がなきゃ、仕事も人生もゼッタイうまくいかないよ。(p.3)
著者は隠し立てをしないで、何でも素直に語る性格なようで、凡人だったら言いにくいようなきわどい処世術も語ってくれているのが、面白いです。人を見下してくる相手や、嫉妬や皮肉屋をやり返す方法などは、普通の日本人は語るのが難しいような内容だと思います。なんでもオープンに語れる著者が語ってくれるのは、感謝したいです。例えば、「商売の一番のポイントは他人を儲けさせることだって、俺は思うね。(p.22)」というのは、普通の言い方ですが、「お金を惜しんでたんじゃ、情報収集だって出来ない相談だ(p.22)」と、接待についても以下のように率直にわかりやすく、説明されます。
「今日は楽しかったな。岡野のおやじ、つきあうとおもしろいじゃないか。」そう感じてもらえれば十分なんだよ。釣りでいうコマセ(撒き餌)を、「こんだけ撒いて鯛が三枚上がらなきゃ、元は取れないな」なんて考えて撒くやつがいるかい?釣果は二の次、その場は損得抜きで、剛毅にパッと撒いてこそのコマセだろ。(p.23-24)
接待をコマセに例えるあたりが、率直すぎる気もしますが、自分の知識を惜しむこと無く語っていると感じます。また、自分をとんでもなくツイている人間だと信じているようで、以下のように書かれています。
不思議なことに、ツキっていうのは周囲の人にも波及するんだよ。実際、俺と縁が切れた会社も人間も、たいがいダメになってる。反対に長くつきあっている会社や人間には、いいことが起きてるんだ。そんな俺自身の経験からいうんだけど、絶対、ついている人間とつきあわなきゃダメだな。(p.43)
その理由は、運がいい人間は見えないところでそれだけの事をしているからで、そこから学べる事があるからだそうです。確かに納得ですが、「俺と縁が切れた会社も人間」といわれた側からすると、たまったもんではないかもしれません。これだけ率直に語ってくれた事には感謝しきりですが、赤裸々に語りすぎて彼の周りに敵が増えないか心配になってしまいます。こう思ってしまうあたりが、こういった率直な本が出にくい原因で、この本の価値になるのかもしれません。
人生は勉強より「世渡り力」だ! (青春新書インテリジェンス)
岡野 雅行 (著)

1章 “おいしい情報”を手に入れる「世渡り力」
2章 人を引き寄せ、動かす「世渡り力」
3章 自己演出で評価を上げる「世渡り力」
4章 仕事の“敵”から身を守る「世渡り力」
5章 遊びから最高のアイデアを生むコツ
6章 どこでも生きていける「腕」の鍛え方

「痛くない注射針」で有名な世界一の職人は「人・情報のマネジメントをする“世渡り力”がなきゃダメ」と説く。将来性ある技術を見極めるために大企業から情報を取る方法など、スキルを最大限生かす「世渡り力」の鍛え方を初公開。
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Paris, France
外国人同士で集まったとき、面白い日本の動画を紹介してくれと言われることがあります。パーティに呼ばれたときに傍らにおいてあるパソコンで見せてくれと言われることもありますし、iphoneなどの携帯端末からyoutubeの面白い日本の動画を教えてほしいと言われることもあります。

こういった場合には、日本語がわからなくとも面白さがわかる動画で、なるべくなら日本的なものがおもしろがられると思います。あと日本語の入力デバイスがなくとも動画を検索できる点も重要です。ということで、先日あったパーティで僕が友人に見せて面白かった動画を紹介しようと思います。

まず、日本のバライティー『ガキの使いやあらへんで』は、「gaki no tsukai」シリーズとして海外でも一部で人気なようです。英語の授業の風景は英語が出来ない日本人のイメージに合致するようで、面白いみたいです。あと、竹刀でのお仕置きがかなり受けていました。「gaki no tsukai english」と検索すると出てきます。



次に、日本の寿司屋での習慣を紹介した動画です。「sushi ramens」と検索すると出てきます。じつはこれは、事実とジョークが混ざっているので、どこまでが事実か分からない外国人の反応が薄かったのですが、一緒に行った日本人に最も受けていました。僕も面白いと思った動画です。日本の文化に詳しい人に見せるのが面白いかもしれません。



これは、フランス限定かもしれませんが、フランスで日本文化を紹介する番組『NoLife: Tôkyô Café』で紹介した動画も面白かったです。「Tokyo Café Karaoké au Japon」と検索すれば出てきます。



あとは、日本ではもう下火かもしれませんが、レイザーラモンHGも大爆笑でしたね。彼の芸には日本語は必要ないので、披露する場所を考えればかなり仕えるネタだと思います。「hard gay」と検索すれば出てきます。



最後にインド人の女の子が面白いと見せてくれた動画です。1989年までやっていた、「たけし城」でした。「Takeshi's Castle」で検索すると出てきます。



他にも面白い動画を知っている方がいらっしゃったらぜひ教えてください。

追記
テツandトモの動画です。英語のタイトルがついた動画がたくさん見つかるので、海外でも人気があるようです。「tetsu and tomo」のキーワードで見つけられます。フランス人が愛好しているというコメントもいただきました。ポタトマさん、ありがとうございます。



追記2(2009/05/07)
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Paris, France
外国人同士で集まったとき、面白い日本の動画を紹介してくれと言われることがあります。パーティに呼ばれたときに傍らにおいてあるパソコンで見せてくれと言われることもありますし、iphoneなどの携帯端末からyoutubeの面白い日本の動画を教えてほしいと言われることもあります。

こういった場合には、日本語がわからなくとも面白さがわかる動画で、なるべくなら日本的なものがおもしろがられると思います。あと日本語の入力デバイスがなくとも動画を検索できる点も重要です。ということで、先日あったパーティで僕が友人に見せて面白かった動画を紹介しようと思います。

まず、日本のバライティー『ガキの使いやあらへんで』は、「gaki no tsukai」シリーズとして海外でも一部で人気なようです。英語の授業の風景は英語が出来ない日本人のイメージに合致するようで、面白いみたいです。あと、竹刀でのお仕置きがかなり受けていました。「gaki no tsukai english」と検索すると出てきます。



次に、日本の寿司屋での習慣を紹介した動画です。「sushi ramens」と検索すると出てきます。じつはこれは、事実とジョークが混ざっているので、どこまでが事実か分からない外国人の反応が薄かったのですが、一緒に行った日本人に最も受けていました。僕も面白いと思った動画です。日本の文化に詳しい人に見せるのが面白いかもしれません。



これは、フランス限定かもしれませんが、フランスで日本文化を紹介する番組『NoLife: Tôkyô Café』で紹介した動画も面白かったです。「Tokyo Café Karaoké au Japon」と検索すれば出てきます。



あとは、日本ではもう下火かもしれませんが、レイザーラモンHGも大爆笑でしたね。彼の芸には日本語は必要ないので、披露する場所を考えればかなり仕えるネタだと思います。「hard gay」と検索すれば出てきます。



最後にインド人の女の子が面白いと見せてくれた動画です。1989年までやっていた、「たけし城」でした。「Takeshi's Castle」で検索すると出てきます。



他にも面白い動画を知っている方がいらっしゃったらぜひ教えてください。

追記
テツandトモの動画です。英語のタイトルがついた動画がたくさん見つかるので、海外でも人気があるようです。「tetsu and tomo」のキーワードで見つけられます。フランス人が愛好しているというコメントもいただきました。ポタトマさん、ありがとうございます。



追記2(2009/05/07)
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三国志の英傑たち (時代小説文庫)
1996年から2年ほどかけて著者が大長編小説『三国志』を書いたときに考えたことをつづっている本でした。著者の小説『三国志』の長いあとがきとのような内容でした。著者の小説『三国志』は、中国の正当な歴史書である「正史」と、中国民衆の間で親しまれていた物語の「三国志演義」をもとに著者自身が想像を膨らませて書いたものです。

正史は事実を並べているだけで記述はそっけないものが多く、演義は物語であるため誇張が多いという問題点を踏まえ、著者が登場人物の境遇や状況から人物の感情まで現実的に想像しています。三国志演義に出てくる大げさな挿話を廃し、正史のそっけなさを補うために、著者の小説ではオリジナルの挿話も含まれています。そういった挿話も著者自身による三国志を現実的に想像した産物です。

反董卓の戦いのときの曹操はこのように書かれています。
ぼくの『三国志』では、徐栄に大敗して帰った曹操にこんな台詞を言わせている。「私は戦って負けた。そして諸君は戦わずして負けたのだ。私は、戦わずして負けた諸君に、決別を告げる」自分は私利私欲のためでなく、戦うべきときに戦う。お前たちとは違う。曹操の諸侯に対する独立宣言だった。(p.54)
三国志のゲームをプレイするときは劉備でやることが多いので、曹操は敵だったのですが、やっぱり曹操は英雄としてかっこいいなと思います。陽月秘話: 中国人の好きなタイプによると、中国では曹操の人気はないそうです。この辺りの解説としては、『正史』を書いた陳寿の蜀へのシンパシーが曹操を乱世の奸雄に仕立てたと解釈されていました。
『正史』を書いた陳寿は、はじめ蜀に仕えた文官だった。...(略)... 蜀へのシンパシーが目立たないように『正史』の中に隠されていたのだ。つまり『正史』における歴史的正当性は当然のように曹操、魏の側に置かれているのだが、その裏に曹操を「乱世の奸雄」に仕向けてしまうようなスパイスも盛り込まれていたのである。(p.25)
他には、諸葛亮公明が劉備に「三顧の礼」で迎えられる場面は、劉備が諸葛亮に仕官を頼み込んだというように言われますが、著者は諸葛亮公明にも大きな野心があったと想像します。
『演義』には、「私は長年、農耕生活を楽しみ、世間に出るのは億劫ですので、ご命令に従うことはできません」と劉備の誘いを断る場面もあるが、ぼくが思うに、いかに時代や文化が違うとはいえ、若くして素質もある人間が、世の中から隠遁したままじっとしていられるはずがない。...(略)...曹操や孫権への士官も視野に入れていただろう。同時に、曹操にも孫権にもすでに優秀な幕僚がいることもわかっている。曹操が天下を取ろうと、孫権がそれを押しとどめようと、結局は自分は出来上がりかけた容器の中で歯車として働くしかない。(p.133)
諸葛亮公明は自分の能力を試せる、劉備の勢力についたという見方でした。劇的な三顧の礼よりも現実味のある想像だと思います。

三国志の英傑たち (時代小説文庫)
北方 謙三 (著)

序章 ぼくが『三国志』を書いた理由
1章 劉備・関羽・張飛—男の出会いとは
2章 曹操—覇道を歩む孤高の英雄
3章 呂布—時代を駆け抜けた戦人
4章 孫堅・孫策—志と非業の死
5章 孫権—赤壁の戦いへ一世一代の決断
6章 孔明—夢と現実を交錯させた戦略家
7章 三国時代の文化—英雄に不可欠な資質とは
8章 その後の三国志—四つのキーワード

三国志は、紀元二世紀末から三世紀にかけて、後漢の末期から晋王朝ができるまでの約百年間を舞台に、そこに群雄割拠した実在の英傑たちの歴史であり、同時 に歴史物語である。幾多の男たちが、それぞれの夢を追い求め、やがて死んでいく滅びの物語にファンは多い。この本では、乱世を生きた英傑たちの姿や魅力 を、ぼくなりの見方を加えながら語っていきたい—。北方謙三が語る『三国志』の醍醐味を纏めた待望の一冊。
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三国志の英傑たち (時代小説文庫)
1996年から2年ほどかけて著者が大長編小説『三国志』を書いたときに考えたことをつづっている本でした。著者の小説『三国志』の長いあとがきとのような内容でした。著者の小説『三国志』は、中国の正当な歴史書である「正史」と、中国民衆の間で親しまれていた物語の「三国志演義」をもとに著者自身が想像を膨らませて書いたものです。

正史は事実を並べているだけで記述はそっけないものが多く、演義は物語であるため誇張が多いという問題点を踏まえ、著者が登場人物の境遇や状況から人物の感情まで現実的に想像しています。三国志演義に出てくる大げさな挿話を廃し、正史のそっけなさを補うために、著者の小説ではオリジナルの挿話も含まれています。そういった挿話も著者自身による三国志を現実的に想像した産物です。

反董卓の戦いのときの曹操はこのように書かれています。
ぼくの『三国志』では、徐栄に大敗して帰った曹操にこんな台詞を言わせている。「私は戦って負けた。そして諸君は戦わずして負けたのだ。私は、戦わずして負けた諸君に、決別を告げる」自分は私利私欲のためでなく、戦うべきときに戦う。お前たちとは違う。曹操の諸侯に対する独立宣言だった。(p.54)
三国志のゲームをプレイするときは劉備でやることが多いので、曹操は敵だったのですが、やっぱり曹操は英雄としてかっこいいなと思います。陽月秘話: 中国人の好きなタイプによると、中国では曹操の人気はないそうです。この辺りの解説としては、『正史』を書いた陳寿の蜀へのシンパシーが曹操を乱世の奸雄に仕立てたと解釈されていました。
『正史』を書いた陳寿は、はじめ蜀に仕えた文官だった。...(略)... 蜀へのシンパシーが目立たないように『正史』の中に隠されていたのだ。つまり『正史』における歴史的正当性は当然のように曹操、魏の側に置かれているのだが、その裏に曹操を「乱世の奸雄」に仕向けてしまうようなスパイスも盛り込まれていたのである。(p.25)
他には、諸葛亮公明が劉備に「三顧の礼」で迎えられる場面は、劉備が諸葛亮に仕官を頼み込んだというように言われますが、著者は諸葛亮公明にも大きな野心があったと想像します。
『演義』には、「私は長年、農耕生活を楽しみ、世間に出るのは億劫ですので、ご命令に従うことはできません」と劉備の誘いを断る場面もあるが、ぼくが思うに、いかに時代や文化が違うとはいえ、若くして素質もある人間が、世の中から隠遁したままじっとしていられるはずがない。...(略)...曹操や孫権への士官も視野に入れていただろう。同時に、曹操にも孫権にもすでに優秀な幕僚がいることもわかっている。曹操が天下を取ろうと、孫権がそれを押しとどめようと、結局は自分は出来上がりかけた容器の中で歯車として働くしかない。(p.133)
諸葛亮公明は自分の能力を試せる、劉備の勢力についたという見方でした。劇的な三顧の礼よりも現実味のある想像だと思います。
三国志の英傑たち (時代小説文庫)
北方 謙三 (著)

序章 ぼくが『三国志』を書いた理由
1章 劉備・関羽・張飛—男の出会いとは
2章 曹操—覇道を歩む孤高の英雄
3章 呂布—時代を駆け抜けた戦人
4章 孫堅・孫策—志と非業の死
5章 孫権—赤壁の戦いへ一世一代の決断
6章 孔明—夢と現実を交錯させた戦略家
7章 三国時代の文化—英雄に不可欠な資質とは
8章 その後の三国志—四つのキーワード

三国志は、紀元二世紀末から三世紀にかけて、後漢の末期から晋王朝ができるまでの約百年間を舞台に、そこに群雄割拠した実在の英傑たちの歴史であり、同時 に歴史物語である。幾多の男たちが、それぞれの夢を追い求め、やがて死んでいく滅びの物語にファンは多い。この本では、乱世を生きた英傑たちの姿や魅力 を、ぼくなりの見方を加えながら語っていきたい—。北方謙三が語る『三国志』の醍醐味を纏めた待望の一冊。
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Paris, France
よく読んでいるブログで経済政策についての論戦が展開されていました→「雇用流動化で失業率は下がる - 池田信夫 blog」。経済学の教授と、大学講師兼弁護士の先生方の論戦なので、経済政策について僕が口を出すのもあれなのですが、「左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論」のエントリで伝えたかったことが、よくわかる例だと思うので、少しコメントしてみたいと思います。

まず、池田氏が自由主義派(右派)で、労働者の解雇規制が経済成長を阻害していると批判しています。
雇用流動化で失業率は下がる - 池田信夫 blog
かりに資本家から搾取して労働者に再分配しても、パイ全体の大きさは変わらない(税の累進性を上げると、イン センティブの低下でGDPは下がる)。今の日本のように年率10%で経済が収縮してゆく経済で、所得分配ばかり争うのはnegative-sum gameにしかならない。雇用流動化によってGDPを高めれば、ほとんどの人々が得するpositive-sum gameになるのである。
次に、小倉氏が平等主義(左派)で企業や高額所得者から、中低所得者へ所得を分配するべきだと述べています。
la_causette: 「新しい産業を育てて投資機会を増やし、内需拡大する」ために必要なこと
従って,内需を図るためには,消費性向の低い企業や高額所得者から消費性向の高い中低所得者への財貨の移転を図ることが急務であり,それは所得税の累進性 を引き上げたり,資産課税を強化したりして,公的部門が吸い上げた財貨を,失業者や低所得者向けの公営住宅への投資や中高等教育の無償化,失業給付の期間 延長等の形で中低所得者へ配分したり,解雇規制や労働組合の保護等によって一般労働者の所得水準を維持し上昇させていくことが必要となります。
利点だけしかない政策というのは、ほとんどないのでどちらの政策にも問題点はあります。例えば最初に100人の村に100の所得があったとして、自由主義にのっとり、上位10人が11の所得を得たとして、全体のパイは110と増えましたが、これではモノが売れません。10個のロールスロイスが売れるだけで、他の90人は消費行動が出来ません。全員がお金を持っていれば、100台のトヨタが売れたはずなのに、全体の所得のパイが増えようが、人は複数の自動車を同時に使えないので売れる台数は少なくなります。逆に平等主義にのっとり、全ての村人が1の所得を得ることを考えると平等すぎて、働くインセンティブがありません。全員がさぼり出してパイが小さくなります。池田氏の言う、negative-sum gameとなります。

つまり、経済政策は、村人上位が全の富を独占する極端(右)と、村人全員が平等に富を分配する極端(左)の間にバランスよく収まることを目的としていると言えます。上の二方の意見は、現状がどちらに偏っていると見るか、時と場合によって正解が違うバランスの問題です。お二方は専門家なので、どちらの政策の利点も問題点も熟知しているのでしょうが、「彼は何をいわれても「階級闘争史観」を変える気はないようなので議論は不毛だが池田氏)」、「〜「北風」政策を推進されるというのは不思議でなりません小倉氏)」など、どちらの意見の書き方も、相手の言い分を聞かない一方的な印象を持ちました。こういった断言がこれらのブログの人気の秘密なのかもしれませんが。

左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論」のエントリでも述べたとおり、フランス人がこの話題について議論する際は、たぶんどちらの側も完全な政策は存在しないことを念頭に議論するような気がします。自説の利点を主張し、相手の意見の問題点を指摘するだけでなく、相手の説の利点と自説の問題点も比べて議論するような気がするのです。対立説の利点も認めず、自説の優位性だけを説けば、もしかしてある説を主張している方が、対立する説の利点をまったく認識していないのか、読者が不安になるのではないかと思います。

関連:
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Paris, France
よく読んでいるブログで経済政策についての論戦が展開されていました→「雇用流動化で失業率は下がる - 池田信夫 blog」。経済学の教授と、大学講師兼弁護士の先生方の論戦なので、経済政策について僕が口を出すのもあれなのですが、「左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論」のエントリで伝えたかったことが、よくわかる例だと思うので、少しコメントしてみたいと思います。

まず、池田氏が自由主義派(右派)で、労働者の解雇規制が経済成長を阻害していると批判しています。
雇用流動化で失業率は下がる - 池田信夫 blog
かりに資本家から搾取して労働者に再分配しても、パイ全体の大きさは変わらない(税の累進性を上げると、イン センティブの低下でGDPは下がる)。今の日本のように年率10%で経済が収縮してゆく経済で、所得分配ばかり争うのはnegative-sum gameにしかならない。雇用流動化によってGDPを高めれば、ほとんどの人々が得するpositive-sum gameになるのである。
次に、小倉氏が平等主義(左派)で企業や高額所得者から、中低所得者へ所得を分配するべきだと述べています。
la_causette: 「新しい産業を育てて投資機会を増やし、内需拡大する」ために必要なこと
従って,内需を図るためには,消費性向の低い企業や高額所得者から消費性向の高い中低所得者への財貨の移転を図ることが急務であり,それは所得税の累進性 を引き上げたり,資産課税を強化したりして,公的部門が吸い上げた財貨を,失業者や低所得者向けの公営住宅への投資や中高等教育の無償化,失業給付の期間 延長等の形で中低所得者へ配分したり,解雇規制や労働組合の保護等によって一般労働者の所得水準を維持し上昇させていくことが必要となります。
利点だけしかない政策というのは、ほとんどないのでどちらの政策にも問題点はあります。例えば最初に100人の村に100の所得があったとして、自由主義にのっとり、上位10人が11の所得を得たとして、全体のパイは110と増えましたが、これではモノが売れません。10個のロールスロイスが売れるだけで、他の90人は消費行動が出来ません。全員がお金を持っていれば、100台のトヨタが売れたはずなのに、全体の所得のパイが増えようが、人は複数の自動車を同時に使えないので売れる台数は少なくなります。逆に平等主義にのっとり、全ての村人が1の所得を得ることを考えると平等すぎて、働くインセンティブがありません。全員がさぼり出してパイが小さくなります。池田氏の言う、negative-sum gameとなります。

つまり、経済政策は、村人上位が全の富を独占する極端(右)と、村人全員が平等に富を分配する極端(左)の間にバランスよく収まることを目的としていると言えます。上の二方の意見は、現状がどちらに偏っていると見るか、時と場合によって正解が違うバランスの問題です。お二方は専門家なので、どちらの政策の利点も問題点も熟知しているのでしょうが、「彼は何をいわれても「階級闘争史観」を変える気はないようなので議論は不毛だが池田氏)」、「〜「北風」政策を推進されるというのは不思議でなりません小倉氏)」など、どちらの意見の書き方も、相手の言い分を聞かない一方的な印象を持ちました。こういった断言がこれらのブログの人気の秘密なのかもしれませんが。

左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論」のエントリでも述べたとおり、フランス人がこの話題について議論する際は、たぶんどちらの側も完全な政策は存在しないことを念頭に議論するような気がします。自説の利点を主張し、相手の意見の問題点を指摘するだけでなく、相手の説の利点と自説の問題点も比べて議論するような気がするのです。対立説の利点も認めず、自説の優位性だけを説けば、もしかしてある説を主張している方が、対立する説の利点をまったく認識していないのか、読者が不安になるのではないかと思います。

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Lyon, France
日本に帰ったときになんとなく少し感じたことですが、日本では中国のイメージが低下していたように感じました。フランスでも中国における人権問題など、さまざまな問題は認知されていますが、歴史ある国、異文化の国としての関心や、経済的な注目度が増していると感じます。少なくともフランスでは中国産のギョーザを異文化料理として喜んで食べる人が多いと思います(普通に売られています)。農業大国フランスは牛乳は輸出するほど作っていて、中国産の牛乳は入ってきません。その他の食べ物の自給率は高く、中国のイメージが、少なくとも毒入り食物ではないこともあって相対的には、現在の日本における中国のイメージより良いのかもしれません。このエントリーではフランスにいる日本人と中国人がどんな感じで関わりあっているか、雑記しておこうと思います。

中国からは多くの中国人の留学生が来ています。中国の指導者には鄧小平をはじめとしてフランスへの留学経験のあるエリートが数多くいます。周りにいる中国人の博士は、例外なく能力的にも人格的にもすぐれた人たちだと言えます(博士でなくとも、わざわざフランスに留学するぐらいなのでモチベーションも高いです。)。そんな彼らと日本人との付き合いが増える背景として考えられるのが、フランス語のクラスです。フランス語はラテン語から派生したために他のラテン語圏と近いので、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などと近く、これらを母国語とする人たちと同時に学習を始めた場合、日本人がどんなに努力しても絶対に追いつけません。発音や単語や語順と言ったものが、彼らの脳みその中では自然に処理されているようです。
ラテン語 - Wikipedia
今日のロマンス諸語(東ロマンス語:イタリア語・ルーマニア語、西ロマンス語:スペイン語・フランス語・ポルトガル語など)は、俗ラテン語から派生した言語である。また、ドイツ語・オランダ語・英語などのゲルマン諸語にも文法や語彙の面で多大な影響を与えた。
特に、イタリア語の”ru ru ru”と短い間に10回ぐらい言っているように聞こえるRの発音は、今時のパリの若者にはかっこ良く聞こえる発音だと聞きました。日本人には一番難しいRの発音を自然に発音しただけで美しいと言われるイタリア人は、うらやましい限りですね。

閑話休題、このエントリーの主題に戻ると、中国人はフランス語を習得するための言語的アドバンテージはほとんどなく、文法的の理解度や、単語習得進度など習得の進捗度は日本人と同じになりがちです。文法も日本人と同じところでつまずきます。なので、最初は日本人と中国人は同じクラスにされることが多いようです。そういうつながりからなのか、中国人のパーティに呼ばれたり、お返しにこちらのパーティーに読んだりして、日本にいる頃より中国人との交流が増えました。その他、顔が似ていたり、漢字を理解したりするので、少し親近感が湧くのではないかと思います。

年末日本に帰ったときに中国に関するたくさんの本を手に入れたので、このブログの書評では中国関連のものが増えることが予定されています。「フランスの日々」と銘打ちながら中国関連の書評が増えますがお付き合いいただければと思います。
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Lyon, France
日本に帰ったときになんとなく少し感じたことですが、日本では中国のイメージが低下していたように感じました。フランスでも中国における人権問題など、さまざまな問題は認知されていますが、歴史ある国、異文化の国としての関心や、経済的な注目度が増していると感じます。少なくともフランスでは中国産のギョーザを異文化料理として喜んで食べる人が多いと思います(普通に売られています)。農業大国フランスは牛乳は輸出するほど作っていて、中国産の牛乳は入ってきません。その他の食べ物の自給率は高く、中国のイメージが、少なくとも毒入り食物ではないこともあって相対的には、現在の日本における中国のイメージより良いのかもしれません。このエントリーではフランスにいる日本人と中国人がどんな感じで関わりあっているか、雑記しておこうと思います。

中国からは多くの中国人の留学生が来ています。中国の指導者には鄧小平をはじめとしてフランスへの留学経験のあるエリートが数多くいます。周りにいる中国人の博士は、例外なく能力的にも人格的にもすぐれた人たちだと言えます(博士でなくとも、わざわざフランスに留学するぐらいなのでモチベーションも高いです。)。そんな彼らと日本人との付き合いが増える背景として考えられるのが、フランス語のクラスです。フランス語はラテン語から派生したために他のラテン語圏と近いので、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などと近く、これらを母国語とする人たちと同時に学習を始めた場合、日本人がどんなに努力しても絶対に追いつけません。発音や単語や語順と言ったものが、彼らの脳みその中では自然に処理されているようです。
ラテン語 - Wikipedia
今日のロマンス諸語(東ロマンス語:イタリア語・ルーマニア語、西ロマンス語:スペイン語・フランス語・ポルトガル語など)は、俗ラテン語から派生した言語である。また、ドイツ語・オランダ語・英語などのゲルマン諸語にも文法や語彙の面で多大な影響を与えた。
特に、イタリア語の”ru ru ru”と短い間に10回ぐらい言っているように聞こえるRの発音は、今時のパリの若者にはかっこ良く聞こえる発音だと聞きました。日本人には一番難しいRの発音を自然に発音しただけで美しいと言われるイタリア人は、うらやましい限りですね。

閑話休題、このエントリーの主題に戻ると、中国人はフランス語を習得するための言語的アドバンテージはほとんどなく、文法的の理解度や、単語習得進度など習得の進捗度は日本人と同じになりがちです。文法も日本人と同じところでつまずきます。なので、最初は日本人と中国人は同じクラスにされることが多いようです。そういうつながりからなのか、中国人のパーティに呼ばれたり、お返しにこちらのパーティーに読んだりして、日本にいる頃より中国人との交流が増えました。その他、顔が似ていたり、漢字を理解したりするので、少し親近感が湧くのではないかと思います。

年末日本に帰ったときに中国に関するたくさんの本を手に入れたので、このブログの書評では中国関連のものが増えることが予定されています。「フランスの日々」と銘打ちながら中国関連の書評が増えますがお付き合いいただければと思います。
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Tande, France
アラカルトとはフランス語で"à la carte"といって、レストランがあらかじめ決めた定食の組み合わせではなく、メニューから自分で直接選ぶ方式のことです。フランス人の政治議論を聞いていると、よく思うことはフランス人は議論の始めに右派と左派の陣営にも立っていないということです。もちろんかれらの心の中ではどちらかに属しているのですが、政策の議論をしていてもそれが前面に出てきません。言葉や思考の上では、中立の立場でいるという姿勢を崩しません。

しかも、各陣営が抱える政策論に拘泥せず、自分が良いと思う政策を擁護していきます。結果、一人の個人の支持する政策は右派と左派のどちらの政策も入り交じったものになります。例えば、日本では、左派といえば、「死刑廃止、憲法九条擁護、自衛隊反対、核兵器保有反対、天皇制改正、労働問題」がセットになっている空気があります。実際には、例えば、自衛隊反対、核兵器保有賛成といった組み合わせも論理的には可能なはずです。フランス人はこれを地でいきます。

例えば、「左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論」で例に出した、ストライキ問題とスカーフ問題をもう一度例にとります。ストライキ問題ではストライキ賛成派が国家や資本家に対する抵抗という視点から左派的な主張になり、反対派が権力の増大を容認する右派的な主張になります。また、スカーフ問題では、スカーフ着用禁止が国家権力の介入を容認する点で右派的な主張になり、スカーフ禁止に反対する方が左派的な主張になるはずです。しかし、実際にはスカーフ禁止に反対するイスラム教の人が、スカーフ問題では左派だったにもかかわらず、ストライキには否定的な右派的な見方をしていました。

これがこのエントリの冒頭で述べた、個人が右派、左派のどちらの陣営に属しているかが分かりにくい理由です。特定の議題で左派的な主張をしていたからといって左派とは限りません。日本では左派の人からは左寄りの主張が聞け、右派からは右寄りの意見が聞けますが、フランスではその逆です。政策に右左の色がついていて、その様々な政策をアラカルト方式で選んでいった結果、その政策群の傾向が右派、左派のどちらかに寄っているというだけなのです。人によって、支持する政策が議題によってバラバラなので、ある人物を右寄り左寄りと区別する意味がないぐらいに感じます。

最後に少し感じる傾向としては、フランス人は最初に提示された意見について、その次に発言する人は違う意見を提示することが多いのではないかということです。議論を楽しむためなのか、反論を口にしないとすまないひねくれ者というか、とにかく人と違う意見を言って議論する傾向があるように思います。個別の議論について、その意義と問題点の両方を理解しているからこそ、その時々によってどちらの意見にも論陣を張れるフランス人ならではのバランス感覚である気がします。もちろん、最後のフランス人ひねくれ者論は少し冗談が入っていてます。ひねくれて反論していると思っているのは僕の思い込みで、実際は反論のある人が次に発言しているだけかもしれません。それでも、政策の利点と問題点を理解しているフランス人ならば、いつでも対立意見を述べることが可能なはずだと思ってしまうのです。

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Tande, France
アラカルトとはフランス語で"à la carte"といって、レストランがあらかじめ決めた定食の組み合わせではなく、メニューから自分で直接選ぶ方式のことです。フランス人の政治議論を聞いていると、よく思うことはフランス人は議論の始めに右派と左派の陣営にも立っていないということです。もちろんかれらの心の中ではどちらかに属しているのですが、政策の議論をしていてもそれが前面に出てきません。言葉や思考の上では、中立の立場でいるという姿勢を崩しません。

しかも、各陣営が抱える政策論に拘泥せず、自分が良いと思う政策を擁護していきます。結果、一人の個人の支持する政策は右派と左派のどちらの政策も入り交じったものになります。例えば、日本では、左派といえば、「死刑廃止、憲法九条擁護、自衛隊反対、核兵器保有反対、天皇制改正、労働問題」がセットになっている空気があります。実際には、例えば、自衛隊反対、核兵器保有賛成といった組み合わせも論理的には可能なはずです。フランス人はこれを地でいきます。

例えば、「左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論」で例に出した、ストライキ問題とスカーフ問題をもう一度例にとります。ストライキ問題ではストライキ賛成派が国家や資本家に対する抵抗という視点から左派的な主張になり、反対派が権力の増大を容認する右派的な主張になります。また、スカーフ問題では、スカーフ着用禁止が国家権力の介入を容認する点で右派的な主張になり、スカーフ禁止に反対する方が左派的な主張になるはずです。しかし、実際にはスカーフ禁止に反対するイスラム教の人が、スカーフ問題では左派だったにもかかわらず、ストライキには否定的な右派的な見方をしていました。

これがこのエントリの冒頭で述べた、個人が右派、左派のどちらの陣営に属しているかが分かりにくい理由です。特定の議題で左派的な主張をしていたからといって左派とは限りません。日本では左派の人からは左寄りの主張が聞け、右派からは右寄りの意見が聞けますが、フランスではその逆です。政策に右左の色がついていて、その様々な政策をアラカルト方式で選んでいった結果、その政策群の傾向が右派、左派のどちらかに寄っているというだけなのです。人によって、支持する政策が議題によってバラバラなので、ある人物を右寄り左寄りと区別する意味がないぐらいに感じます。

最後に少し感じる傾向としては、フランス人は最初に提示された意見について、その次に発言する人は違う意見を提示することが多いのではないかということです。議論を楽しむためなのか、反論を口にしないとすまないひねくれ者というか、とにかく人と違う意見を言って議論する傾向があるように思います。個別の議論について、その意義と問題点の両方を理解しているからこそ、その時々によってどちらの意見にも論陣を張れるフランス人ならではのバランス感覚である気がします。もちろん、最後のフランス人ひねくれ者論は少し冗談が入っていてます。ひねくれて反論していると思っているのは僕の思い込みで、実際は反論のある人が次に発言しているだけかもしれません。それでも、政策の利点と問題点を理解しているフランス人ならば、いつでも対立意見を述べることが可能なはずだと思ってしまうのです。

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Paris, France
フランス人の政治議論を聞いていると、よく思うことは多くのフランス人は右派でも左派でも非常に近い意見を持っているということです。議論しているときにお互いの意見を認め合います。たとえば、ストライキついて議論していると、ストライキの反対派も一定限度ストライキの重要性を認めていて、ストライキ賛成派も一定程度ストライキの問題性を認識しています。賛成反対どちらの意見を擁護していても、相手の論点については認め合っているのです。

ストライキを例にとると、こんなことがありました。ストライキは交通手段がなくなって経済活動を制限する割には、得るものが少ないというストライキ反対の意見を言う人がいたときです。ストライキの頻発がフランスの経済を殺しつつあるという認識でした。もう一方の人は、政府や資本家に対抗する手段としてのストライキの重要性を説いていました。権力の監視という点では、ストライキにも存在価値があることを説きます。するとストライキ反対派は、労働組合とストライキの存在価値は認めるけど、やりすぎの上に成果が少ないといいます。また、労働組合を統率する特定の人が、投票による国民の信任を受けずに力を持っていくことにも嫌悪感を示します。反対派はストライキや組合の問題点は最初から認識しています。

このようなことを見ていると、賛成反対どちらに立っている人も、ストライキの存在価値と問題点の両方を認識しています。両者はストライキ賛成(左派)と反対(右派)に分かれていても、その距離はものすごく近いのです。現状を顧みながら、どちらかといえば、右とか左とか言っているのです。僕から見ると、右と左の中間のものすごく近い位置で手をつなぎながら議論しているように見えます。両端にわかれ、右翼左翼と呼び合う日本とはちょっと違うのかなと思います。

もうひとつの例として、イスラムのスカーフ問題もありました。彼らの議論は「文化の多様性を認めよう。君の文化を認める代わりに、僕の文化も認めてよ」と言ったようなおおざっぱな議論で終わりません。誰でもが納得できる議論で終わることなく、文化の多様性と共和国の理念が激しく対立する論点に踏み込んでいきます。

フランスでは、憲法の前文第一条にもある通り、非宗教的な国家、生まれ、人種、宗教の区別なく生活できる国家を作るために、公立の学校ではスカーフの着用が禁止されています。子供の頃から常に触れあう友人との間に宗教の溝を作らないフランス共和国の苦肉の策です。

Constitution de la République française
(フランス共和国憲法 前文第一条)

La France est une République indivisible, laïque, démocratique et sociale. Elle assure l’égalité devant la loi de tous les citoyens sans distinction d’origine, de race ou de religion.
フランスは、非宗教的、民主的、社会的な、分割し得ない共和国である。フランスは、生まれ、人種、宗教の区別なしに、すべての市民に対して法の下での平等を保障する。
しかしこの法律には、大きな問題点があります。それは、共和国理念のためのとはいえ、国家権力が個人の衣服を無理矢理はぎ取っているという心苦しさです。

フランスにおいて現在でも、答えのないこの議論について、食後のコーヒータイム30分を使いました。その結果わかったことは、やはり両者の意見はかなり近いということです。イスラム教の人もいたのにも関わらず、どちらの陣営もどちらの問題も認め合っています。誰でもが納得できる議論で終わることなく、問題の本質に踏み込み答え対して接近していった結果、合意に至らなくても二人の意見はかなり近いことを確認することが出来ました。

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Paris, France
フランス人の政治議論を聞いていると、よく思うことは多くのフランス人は右派でも左派でも非常に近い意見を持っているということです。議論しているときにお互いの意見を認め合います。たとえば、ストライキついて議論していると、ストライキの反対派も一定限度ストライキの重要性を認めていて、ストライキ賛成派も一定程度ストライキの問題性を認識しています。賛成反対どちらの意見を擁護していても、相手の論点については認め合っているのです。

ストライキを例にとると、こんなことがありました。ストライキは交通手段がなくなって経済活動を制限する割には、得るものが少ないというストライキ反対の意見を言う人がいたときです。ストライキの頻発がフランスの経済を殺しつつあるという認識でした。もう一方の人は、政府や資本家に対抗する手段としてのストライキの重要性を説いていました。権力の監視という点では、ストライキにも存在価値があることを説きます。するとストライキ反対派は、労働組合とストライキの存在価値は認めるけど、やりすぎの上に成果が少ないといいます。また、労働組合を統率する特定の人が、投票による国民の信任を受けずに力を持っていくことにも嫌悪感を示します。反対派はストライキや組合の問題点は最初から認識しています。

このようなことを見ていると、賛成反対どちらに立っている人も、ストライキの存在価値と問題点の両方を認識しています。両者はストライキ賛成(左派)と反対(右派)に分かれていても、その距離はものすごく近いのです。現状を顧みながら、どちらかといえば、右とか左とか言っているのです。僕から見ると、右と左の中間のものすごく近い位置で手をつなぎながら議論しているように見えます。両端にわかれ、右翼左翼と呼び合う日本とはちょっと違うのかなと思います。

もうひとつの例として、イスラムのスカーフ問題もありました。彼らの議論は「文化の多様性を認めよう。君の文化を認める代わりに、僕の文化も認めてよ」と言ったようなおおざっぱな議論で終わりません。誰でもが納得できる議論で終わることなく、文化の多様性と共和国の理念が激しく対立する論点に踏み込んでいきます。

フランスでは、憲法の前文第一条にもある通り、非宗教的な国家、生まれ、人種、宗教の区別なく生活できる国家を作るために、公立の学校ではスカーフの着用が禁止されています。子供の頃から常に触れあう友人との間に宗教の溝を作らないフランス共和国の苦肉の策です。
Constitution de la République française
(フランス共和国憲法 前文第一条)

La France est une République indivisible, laïque, démocratique et sociale. Elle assure l’égalité devant la loi de tous les citoyens sans distinction d’origine, de race ou de religion.
フランスは、非宗教的、民主的、社会的な、分割し得ない共和国である。フランスは、生まれ、人種、宗教の区別なしに、すべての市民に対して法の下での平等を保障する。
しかしこの法律には、大きな問題点があります。それは、共和国理念のためのとはいえ、国家権力が個人の衣服を無理矢理はぎ取っているという心苦しさです。

フランスにおいて現在でも、答えのないこの議論について、食後のコーヒータイム30分を使いました。その結果わかったことは、やはり両者の意見はかなり近いということです。イスラム教の人もいたのにも関わらず、どちらの陣営もどちらの問題も認め合っています。誰でもが納得できる議論で終わることなく、問題の本質に踏み込み答え対して接近していった結果、合意に至らなくても二人の意見はかなり近いことを確認することが出来ました。

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Saint-Germain-en-Laye,
France
先月は7エントリーを投稿して、約16300ページビューでした。後半は、あんまり更新されていませんでしたが、アクセスくださった方ありがとうございました。

いつもの通りに人気エントリをランキングにしておきます。常時右側に表示されているエントリが強いのは、当たり前で変わらずでした。11位に先月書いたエントリがランクインした以外は全て過去のエントリが独占する結果です。さらに、4位にランクインした「フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)」は、著者の許しを得て転載している記事です。初めて見たときに、本当に面白いと思ったものなので、全編フランス語の日本特集ですが、言葉がわからなくとも面白いと思います。オススメです。

コメントをいただいた方、見てくれている方、RSSを登録してくれている方、ありがとうございました。これからも、このブログをよろしくお願いします。
  1. フランス語の勉強の仕方(まとめ)
  2. [まとめ] フランスと海外のマンガ人気
  3. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(1/2)
  4. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
  5. 世界にいい影響を与える国:ニッポン
  6. フランス語の勉強の仕方
  7. フランスのマンガ人気
  8. 国民総かっこよさ(Gross National Cool)とは
  9. 日本人はなぜ悲観論が好きか
  10. 日本文化エロネタに対するフランス人の反応
  11. 2009年1月29日、全面ストライキ
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Saint-Germain-en-Laye,
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先月は7エントリーを投稿して、約16300ページビューでした。後半は、あんまり更新されていませんでしたが、アクセスくださった方ありがとうございました。

いつもの通りに人気エントリをランキングにしておきます。常時右側に表示されているエントリが強いのは、当たり前で変わらずでした。11位に先月書いたエントリがランクインした以外は全て過去のエントリが独占する結果です。さらに、4位にランクインした「フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)」は、著者の許しを得て転載している記事です。初めて見たときに、本当に面白いと思ったものなので、全編フランス語の日本特集ですが、言葉がわからなくとも面白いと思います。オススメです。

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  2. [まとめ] フランスと海外のマンガ人気
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  4. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
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  6. フランス語の勉強の仕方
  7. フランスのマンガ人気
  8. 国民総かっこよさ(Gross National Cool)とは
  9. 日本人はなぜ悲観論が好きか
  10. 日本文化エロネタに対するフランス人の反応
  11. 2009年1月29日、全面ストライキ
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