Avignon, France
明けましておめでとうございます。

このブログも2008年4月1日に始めてから、20ヶ月経ちました。総エントリ数が262となり、平均すると月に13エントリほど投稿してきたことになります。当初はヨーロッパ留学の良さを伝える不定期のアップデートを予定していましたが、いろいろ内容を拡張しつつ続けられているのは、見てくれたり反応をしてくれる人がいるおかげだと思います。

2009年の最後の月にGoogle analytics調べで50万ページビューを達成しました。ブログにアップロードされている260ページのデータがコピーされて読者のブラウザに配信され、なにがし反応を起こしていることに感動します。ありがとうございます。これからも地道に続けて良く予定ですので、よろしくお願いします。

2009年最もアクセスがあったエントリ

2009年最もはてなブックマークが付いたエントリ

2009年最もTweetされたエントリ

TwitterにおけるTweet数はサービスによって若干数に違いがあるのですが、Topsyで調べたTweet数です。

日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない

もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい

日本をもっとダメな国だと思い危機感を煽りましょう

市民が望んでないことを実現するリーダーが必要

日本人はなぜ悲観論が好きか

2009年最もふぁぼられたTweet

2009年6月に始めたTwitterも現在1200回つぶやきました。ふぁぼったー調べでファボが多い5つを紹介します。
  • 9月23日「白人がアフリカにやってきたとき、われわれは土地を持ち、彼らは聖書を持っていた。彼らはわれわれに目を閉じて祈ることを教えた。われわれが目を開いたとき、彼らは土地を持ち、われわれは聖書しか持っていなかった」ジョモ・ケニヤッタ http://ow.ly/qxJm

  • 12月4日 マ イケル・ムーア「アメリカになりたい気持ちは捨てて、日本のままでいて。1945年以来、皆さんが作り上げてきた、教育が大切だと考え、解雇はしないと 言っていた日本で居続けて。他国を一切侵略せず、侵略しようとしている国をサポートしない国に戻って」http://ow.ly/Ihmf

  • 10月10日 まじか。「新幹線や飛行機では、なぜか集中できるという人も多いのではないでしょうか。最近の研究で身体を動かさずとも、動いているという感覚があれば、脳が活性化することがわかっています」RT 池谷裕二が指南!やる気が出る「脳」のだまし方 http://ow.ly/tKUr

  • 10月29日 「過去1万年の人類史は極論すると、いわば悪貨(農業)が良貨(狩猟採集)を駆逐したグレシャムの法則史ということになる」RT 先進国ではなぜ、少子化するのか:日経ビジネスオンライン http://ow.ly/xbWy

  • 12月10日 「アメリカ人にとって英語は単なるコミュニケーションのツールでしかないのに、フランス人にとってフランス語は教養であり、アートである。アメリカ人にはなかなか理解できないが、フランス語は一種の歴史的記念物である」RT Style:30's Style http://ow.ly/KvYJ
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Paris, France
東アジアに安定と調和のとれた社会を作ったり、少子高齢化による社会のダメージを補うためなど、これからは日本では様々な場面で大きな転換が求められることになると思います。そのためには、選挙で選ばれたリーダーが市民が望んでない政策を実現していく必要があるんだろうと思います。それも、突き詰めると単に”現在の日本”に必要なだけでなく、投票による民主主義システム全般にわたって必要不可欠だと考えられます。

リーダーが現実を変えた後に大衆の意識が変わる

なぜリーダーには市民が望んでない政策を実現していく必要があるかというと、多くの場合、現実が変わる前に大衆の意識が変わることが無いからです。幕末に攘夷か開国かで揉めていた時に、開国する前に開国の方が正しいと大衆に分からせるのは至難の業です。江戸時代に牛肉を汚れていると思っていた人たちも、文明開化の後に「すき焼き」を食べて初めて異国の文化も良いかも知れないと思い始めたりするのです(日本の獣肉食の歴史)。

欧州の歴史を見ても望まれない政策が実行されて初めて、人々に理解されるという推移をたどっているものがあります。現在のヨーロッパの強みはEUという共同体の調和だと理解されています。しかしフランスでは30年にわたり2回も殺し合ったドイツと和解するのは、大衆の望みを越えるリーダーの決断が必要でした。通貨統合、共通防衛、出入国管理の撤廃(シェンゲン条約)、欧州大統領、欧州憲法(未達成)などは、国家の役割を解体していく過程です。フランス万歳な人たちが賛成するわけはありません。決して大衆が納得済みで行われてきたことではないのです。本ブログでオススメの書「[書評] フランスの外交力—自主独立の伝統と戦略」では、ヨーロッパの父が以下のように考えたと書かれています。
この試みを主導したのは、のちに「ヨーロッパの父」と呼ばれることになる二人のフランス人、ジャン・モネとロベール・シューマン外相であった。二人は欧州統合の基本は仏独和解にあると信じて疑わなかった。しかし、三〇年にわたり干戈(かんか)を交えた両国国民間の不信を解消することは一朝一夕にはできない。そのためには、協力と連帯の実績を一つ一つ積み上げていくしかないと、二人は考えた。モネは後年著した回想録の中で、次のように述べている。
「世に起こることの流れを変えなければならない。そのためには、人々の精神を変えなければならない。言葉のみでは不十分である。本質に関わる行動を直ちに起こすことによって初めて、現在の停滞状況を変えることができるのである.... 現在与えられている条件の下でドイツ問題を解決しようとしてはならない。条件そのものを変えていかなければならないのである。」(p.86)
順を整理すると、リーダーの発想→行動(現実が変わる)→人々の精神が変わる、となります。こういった場合、人々の意識が変わる前に現実を変える必要があるのです。

民主主義システムはわがままな政治家を想定している

民意を反映するリーダーが善で、民意を汲まないリーダーが悪とされる風潮の中で、「市民が望んでないことを実現するリーダーが必要」と言うと突拍子も無く聞こえるかもしれません。しかし、逆に民意を反映するリーダーは必要ないことが以下のように考えると分かります。

現在の民主主義ではリーダーを選出するために投票します。そして、そのリーダーが政策を決定します。ここでもし仮に、人々が政策に直接投票できるシステムができれば、それを使うでしょうか?Webで簡単に政策への賛成/反対を投票できたりするシステムができたとします。何千もある政策を理解し意見を表明するのが手間であるなら、人々の意識を抽出し政策を決定できる未来のシステムが完成したとします。こんなシステムは使えないことは直感で分かります。自分に都合のいい政策ばかりに賛成すれば、総論賛成、各論反対となって、各政策ごとの整合性はバラバラになります。

こう考えると現在の民主主義がなぜ政策ではなく人に投票するのかが分かります。市民は賢くて信頼できる人物を互いに選び合って、その人に政策を決定してもらいます。いわば、選出された人は自分よりも賢く政策に詳しくて、かつ信頼できるということを前提としています。とすれば、選出された人が自分が反対する政策を進めていったとしても、その人の方が賢く正しいという前提に立って、信頼してついていかなければなりません。投票によって最も賢くて信頼できる人物が選ばれたのですから。

選出された人から見ると、市民が望んでいない正しい政策を推進していく必要があります。市民が現在望んでいることだけを進めるのなら、上記の政策へ直接投票するシステムを利用すれば良いはずです。そうしないのは現在のシステムは、リーダーが大衆が見ている未来よりも先を見通して、大衆の望むもの以外を進めていくことを期待しているからです。民主主義システムは市民が望んでないことを実現するリーダーを必要としているのです。

まとめ

民主主義システムは市民が望んでないことを実現するリーダーを必要としています。こういったリーダーは特に近い将来の日本に必要なんだと思います。市民は賢くて信頼できる人物を互いに選び合うことで、最も賢く信頼できる人物が選出できるかには疑問が残ります。また選ばれたリーダーに無批判についていくことは、ヒトラーのようなリーダーを生む可能性もあります。正しく人物を選ぶということは、また別の難しい問題です。チャーチルは「実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。」と言ったそうです。実際はより良いシスムがまだ無いと言ったところでしょう。つまり、正しい人物を選べる確率を上げていくしか無いのでしょう。個人的には投票義務化でも良いかなと思います。国家は税でお金を徴収する代わりに、または追加で、国民に頭脳の活用を強いるわけです。膨大な教育費をかけて鍛えてきた国民の頭脳をフル活用する良い案だと思うのですが、どんなもんでしょう?

関連
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Provins, France
フランスの移民政策は失敗だったと結論づけられることがあります。夜間外出禁止令が発令された2005年パリ郊外暴動事件など移民関係の問題が山積しているからです。僕も渡仏するまでは、フランス人は自国に誇りを持ってそうだし、プライド高そうだし、他文化を許容することができないのかな、なんて考えてました。それは、まったく違っていて、フランス人は他文化にかなり寛容なことが分かってきました。

フランス人の中には、白人の他にも黒人、アラブ系、アジア系、南米系など様々な人たちがいます。職場では彼らと留学生が混じり合って仕事をしていますが、フランス人とそれ以外を隔てる壁を感じることは少ないです。フランスは人種や文化の交流がうまくいっている国だと感じます。いろいろな肌の色や髪の色の子が、物心ついた頃から学校や公園で一緒に遊んでいるのを見ると次世代はもっとうまくいくんだろうと、想像できます。

日本の移民問題で、フランスの移民政策の失敗を教訓に日本は移民をやめた方が良いという論調もありますが、これは全く違います。日本とフランスの置かれている状態が全く違うからです。日本がフランスのように移民政策をとったら、フランスの成功(失敗?)レベルまで達しないは明白です。

他国のニュースは深いところまで伝わらない

実際に暮らしてみた感想とニュースで伝わるフランスの姿が一致しないのには、他国のニュースが深いところまで伝わらないことが挙げられます。実際にフランスで暮らしていると、フランスの移民政策は成功しそうだという感触が伝わってきます。しかし日本のニュースでは全く違った印象で伝えられました。例えば、下の書では2005年パリ郊外暴動事件の発生した現場を見物に行った著者が以下のように書いています。
[書評] 日本とフランス 二つの民主主義
実際、危険も恐怖も何もなかった。私自身はごく普通に過ごしていたし、当のフランス人たちもまた、少なくともそのほとんどは、ごく普通に生活していたと思われる。しかし、日本の家族や友人からの電話やメールに、私は大いに驚かされた。日本での報道を見た人々は、フランス全土がまるで混迷するイラク顔負けの内戦状態にでも陥っているかのような印象を受けたらしいのだ。(p. 180)
このときは1が月半ぐらい続き、車はたくさん燃えたらしいのですが、人への攻撃はなかったそうです(老人が群衆に巻き込まれてなくなったそうですが)。事件が移民政策の現状を表しているのは確かなので、社会学者は詳細に分析するでしょうが、多くの一般人には大したことじゃないというのが、感想だと思います。

また、日本の大したことがないニュースが拡大されてフランスに伝わることがあります。2006年の大雪では転落事故などで1ヶ月で50人が亡くなりました(ニュース)。このときフランスでは除雪作業のための自衛隊派遣など検討することが伝わり、日本にいるフランス人の家族からは心配の連絡が入ったそうです。実際には関東にはうっすらと雪が積もるくらいで危険も恐怖もなかったのです。

文化が混ざり合ってできた国、フランス

フランスが他文化に寛容なのは、フランスは欧州大陸の中央部にあり、昔から文化の交流が盛んだったからでしょう。紀元前から、ローマ人、ガリア人、ゲルマン人との混血が進んできました。「ローマ帝国の支配に組み込まれたガリア諸部族はローマへの同化が進み(ガロ・ローマ文化)、やがてゲルマン人とも混血が進んで、後のフランク王国・フランスを形成していった。wikipedia)」。また、フランス共和国という国民国家が成立したときにも、ほとんどイタリアだったニースや、ほとんどドイツのようなアルザス、独立していたブルターニュなどを版図に組み込んでいます。それぞれが別の言語(パトワ、方言みたいなもの)でしゃべっていたため、時には標準フランス語をしゃべるように強制されたりしました。なんと、この100年で5分の4の人が言語をフランス語に変えたそうです。
[書評] フランス三昧
フランスはヨーロッパで、いやおそらくは世界で唯一の、この一〇〇年以来人口の五分の四が言語を変えた国である。(P.163)
植民地との文化の混ざり合いなど、異文化交流には日本の状況では考えられないほどの量と期間が費やされています。フランス、あるいは多くの欧州では、ある日突然、生まれも育ちも考え方も違う隣人が来るという場面が繰り返されてきたのです。こういった交流の中から醸成された他文化と共生する空気は移民に心地良い物だと考えられます。

移民問題は試行錯誤の連続

移民問題は成功したらそれでおしまい、失敗したらそれでおしまい、ではありません。長い努力の上に少しずつ良い形を作っていくような物です。そう言った意味では、他国の移民政策を成功・失敗と言い切ってしまうのは移民問題をよく分かっていないと思います。

移民は違う人種、背景、宗教、考え方の人間が同じ場所で生活することになります。人間で例えるなら移民問題は結婚のような物ではないかと思います。どちらも「育ってきた環境が違うから〜好き嫌いは否めない〜」と言うように、誰もが順調じゃないことを予想して、それでもお互いに理解し合いたいというように考えます。結婚を死別や離婚などの結果が出る前の過程の状態で、成功だった、失敗だったと結論することに意味はありません。喧嘩して上手くいってないように見えても、理解し合うための過程であるかも知れないのです。同じように移民政策でも、問題が表面化しても、それが上手くいくための過程であることもあるのです。

まとめ

日本ではフランスの移民政策は失敗と位置づけられますが、住んだ感想でフランスの移民政策は成功しつつあると確信しています。確かに問題はたくさんありますが、成功するまでの過程に過ぎないと感じます。フランス人だったら必ず解決できるに違いありません。フランスには紀元前からの文化交流の歴史があり、不和や対立を経て醸成されてきた他文化理解の空気が存在します。この点は日本とは全く違うところです。「フランスのように失敗するから」日本は移民をやめた方がいいのではなくて、「フランスほど上手くできないから」とした方が実情にあうと思います。

(日本の移民についてはまたの機会に)
追加
書きました。

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Paris, France
11月は4エントリを更新して、アクセスは約39800PVでした。

上旬に日本からフランスに帰ってきて、下旬には出張でマドリッドに行くという日程でした。移動中は日本で買って持ってきた本を読む時間があり、久しぶりに書評を書いてみました。このブログは書評のカテゴリが現在61エントリと最も多いのですが、7月以来書いていませんでした。たくさん書評を書いていた頃と同じぐらいの頻度で本は読んでいるのですが、全て紹介しないようになっています。自分のメモのためにも、書評を再開しようかなと思います。

今週の人気エントリです。10月最終日に更新した「日本一時帰国の雑感「日本は絶えず進化している」」が10月に引き続いて首位でした。
  1. 日本一時帰国の雑感「日本は絶えず進化している」
  2. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(1/2)
  3. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
  4. もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい
  5. 日本文化エロネタに対するフランス人の反応
  6. 第10回 Japan Expo Paris 2009行ってきました
  7. 日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない
  8. 海外でもリアルタイムに日本のテレビを見る方法(無料)
  9. 日本はもうダメだ論と日本の優秀な人材
  10. 日本人はなぜ悲観論が好きか
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Paris, France
フランスは18歳の時の入学試験で優秀な成績を収めたグランゼコール出身のエリートが社会を主導しています。対する日本は社会に出てからもほぼ平等な立場でリーダーの地位を目指して競争します。これに関して、日本は誰もが競争を降りることなく、希望を持って上位を目指せる環境があるから、全員が辛くなってしまうという趣旨のエントリがありました。

人生は早めに諦めよう! - Chikirinの日記 このエントリーを含むはてなブックマーク

しかし一定の年齢で、たとえばイギリスやフランスに生まれていれば小学校の終わりくらいで、「自分にはオックスブリッジやグランゼコールにいって、エリートキャリアを手に入れて、高給が約束された職業を得るのは無理だ」とわかる。
確かにフランスは18歳で上位のグランゼコールに入学すると将来のリーダー候補になり、それ以外の人は、お気楽な人生を歩むことになります。つまり、このシステムは18歳以降の順位を固定し、大器晩成を否定するシステムです。このようなシステムが日本でも受け入られるとは思いませんが、希望を持って上位を目指せる環境が全員を辛くしているというのは、あるような気がします。

このエントリでは、一般のフランス人がどんなにお気楽に幸せに過ごしているかではなく、フランスのシステムが作るエリート達について日本と比べてみていこうと思います。

人を統率することだけに特化して成長する人たち

多くの人が早めに人生を諦めることになるフランスのシステムはリーダーの資質を高めることに寄与します。18歳で上位のグランゼコールに入学すると将来リーダーになることが保証され、会社などでもリーダーになることに関係しない面倒な仕事は彼らに与えられることはありません。彼らは短期の仕事に煩わされることなく、一般の人たちよりもより遠くの未来を見通すことを自らの使命とします。彼らは将来、未来に対するビジョンを持ったリーダーになることを目的に据えて成長していきます。そして、それを周りの人からも求められているのです。

日本ではリーダーとなる人物に未来に対するビジョンが欠けていると嘆かれています。日本のシステムでは、皆が平等に競争を行うため、将来リーダーになる人にも平等に仕事を与えられます。将来リーダーになる人も平等に短期の仕事に煩わされることになるのです。そして人の抜きに出る業績で社長のイスまでたどり着いたあとに、初めて人よりも遠くの未来を見通すことを求められてしまいます。これでは、未来に対するビジョンに欠けているのも頷けます。

フランスと日本のリーダーの違いは、20歳の頃から遠く未来を見通すことだけを使命として成長してきた者と、短期の仕事をやっつけることに血道を上げてきてリーダーになった瞬間に初めてビジョンを語ることを余儀なくされる者の違いです。

グランゼコール出身者

大衆を教育するための大学とは違い、グランゼコールは少数精鋭の教育方針でリーダーとなる者を教育します(例えば、ポリテクニークは一学年フランス人400人、外国人100人ほど)。よって、ほとんどのリーダーはグランゼコール出身となります。日仏経済情報によると”フランスの上位200社の大企業では、社長の50%はENAと ポリテクニークの出身者で、エコール・デ・ミーヌや ポン・エ・ショセなどを含めると実に3分の2の企業経営のトップがこれらの官僚の出身者で占められている”そうです。

ビジョンを示すリーダーとして日本でも有名なカルロス・ゴーン氏やジャック・アタリ氏もグランゼコール出身です。ゴーン氏はミシュラン入社から3年目(27歳)で工場長、入社7年目(31歳)でブラジル・ミシュランの社長、入社11年目(35歳)で北米子会社の社長とCEOという出世をしています。まさに人を統べるためだけのキャリアといえます。

アタリ氏がミッテラン大統領の大統領補佐官になったときは38歳でした。「[書評] 21世紀の歴史——未来の人類から見た世界」を読めばわかりますが、未来への洞察力をひたすら磨いてきた人だと言うことがわかります。

(たいていの口の悪いフランス人にとってはグランゼコール出身者は悪口の対象となります。入学したら勉強なんてしないよとか、高級官僚の天下りのことをPantoufles(上履き)などと揶揄したりします。汚い地面に足をつけずに心地よい上履きのイメージでしょうか。)

彼らはとても人当たりが良い

人を統率するためだけの教育を受けてきた人に接するのは難しそうだと思いがちが、そうではないと感じています。僕がお世話になっている先生達の中には、まさにこういったキャリアを歩んできている人たちがいますが、彼らは例外なく誰に対しても快く接することができる人物だと感じます。

ミーティングなどでは、論理的に自然に議論を主導していきます。また、工学の先生なのに歴史や文化への造詣が深く、雑談の折に触れて若い学生にも基礎から語ってくれたりします。うちのチームは学生から教授まで全て、親しい者に対する「あなた」を意味するtuを使って会話していますが(普通は目上の者に対する「あなた」はvous)、工学の議論でもいつでも対等な立場で議論しているような印象を与えています。

出張でこの教授と長く2人の時間があったときは、事前にそれなりに緊張していましたが、実際はすごく楽しい時間を過ごせました。日本とフランスの比較などで僕の意見を熱心に聞いてくれたり、自説を披露したりしてくれただけでなく、家族構成や家族の歴史なども話し合うことができ、親しい感じの印象を与えてくれます。また、わからないことがあったり、確信が持てないことがあったりすると、自然な感じで僕の意見を求めてくれたりします。

理念をもって、誰よりも遠い未来への洞察を求めて、人の上に立つ運命を感じながら成長して、余裕がある人物がこういう風になるんだなという風に感じています。
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Paris, France
Business Media 誠:松田雅央の時事日想:“ニセジャポ”にダマされてはいけない……海外の日本食事情 (その1)にパリの日本食レストランについての記事が出ていました。パリで、おかしな日本食が蔓延していて、外国人が日本食に失望することを心配する記事です。正しい日本食を評価し推進する組織も、「スシポリス」、「日本人以外が経営する店の締め出すナショナリズムの障壁」などと批判を浴びています。

パリの日本食レストラン

日本食はパリの人たちが皆でレストランに行くときの選択肢(中華、イタリアン、マグレブ、洋食一般)に入っていることが多いです。引用にもあるように健康食ブームの波に乗っているという推測もあります。また、友人曰くイスラム教の人は中華よりも日本食を選ぶことが多いそうです。イスラム教の人は豚を食べず、牛、鳥、山羊など他の肉もイスラムの法に則った殺し方をした物でない限り食べません。一方、魚と野菜については拘束がないので、刺身、寿司、天ぷら、うどんなどイスラム教の人が食べられる食事が多いからだそうです。
例えばパリ。ここ数年の日本食ブームで日本食レストランが続々開店し、近郊を含めれば600軒以上、一説によれば約1000軒が営業している。日本食の持つ健康食のイメージがウケているようだ。海外の日本食事情 (その1)
パリの日本食を問題にするときには、中華料理から日本料理に鞍替えしたレストランが取り上げられます。パリでは日本食はヘルシーでオシャレなイメージがついているため、量が少なくても高い料金を設定できるために、儲かるとみられています。
問題は、もうかるという理由だけで他の業種から日本食レストランへ安易に鞍替えする店が非常に多いこと。傾向として中華レストランから日本食レストランに変身する店が目立つ。海外の日本食事情 (その1)

顧客の嗜好に合わせた料理を出す営業努力

日本食の料理経験が少ない店では、当然へんてこな日本料理が出てきます。誘われて二軒だけ行ったことがあるのですが、酢飯が妙に甘い寿司、刺身のつまの部分がキャベツのサラダに置き換えられている刺身が出てきました。また、味噌汁にレンゲがついていたり、1.味噌汁、2.刺身、3.焼き鳥とごはん、というようにフレンチのように三度に分けて運ばれてくるスタイルも人気です。また、ウナギにかける甘いタレのような物をご飯にかけるためにテーブルに常備されています。

これらの料理をへんてこだと笑うのは簡単ですが、なかなか考えられていると感心しました。まず、フランスではスープをお皿を持って口に注ぎ込むのはマナー違反ととらえる人もいます。レンゲはマナー違反を気にするフランス人には必須でしょう。また、刺身のつまがキャベツサラダだったのは衝撃ですが、ほとんどの人が食べないつまはもったいないし、食べても味がないし、フランスではきっと高価だろうし、おいしく安価なキャベツサラダに置き換えるのは理にかなっています。

また、基本的にフランス人は口中調味をしません。パンとチーズ、パンとハムを一緒に食べますが、パンを口に入れてからチーズを口に入れれば一緒だという考え方をしません。必ず、パンの上にチーズを置いてから口に運びます。なので日本の定食を食べるときは、おかずを完食してから白米だけを食べるようなことになり、かなりの日本通でも満遍なく食べたりしません。ウナギのタレがテーブルの常備されているのは、味気ない白米だけを食べることになるフランス人の需要を考えての正しい営業努力だといえます。

(パリのインド料理でみた営業努力は、カレーにつけるナンにとろけたチーズを挟んであるものでした。ナンだけで食べてもピザのように美味しいようになっていました。)

パリの本物の日本食は分が悪いのか

安かろう不味かろうの偽日本食が台頭してくると、本物の日本食が割高に感じられて敬遠されることになります。スシポリスの人たちは悪貨が良貨を駆逐するような状況を好ましく思っていないのでしょう。しかし、パリのほとんどの人は偽物の日本食レストランが乱立していることを知っていますし、できれば本物の日本食を食べたいと考えています。正しい日本食が提供されていれば、口コミでそのことは伝わるでしょう。僕もフランス人と日本食を食べたときには、おかしな日本食に驚いたことは率直に伝えて、日本ではどうかコメントしたりしています。フランス人にとっても本物の日本食の方が魅力が高いのです。それでも、本物の日本食が、安かろう不味かろうの偽日本食に押されているのには別に理由があるはずです。

レストランは現地の客を満足させる質と値段を

正しい日本食のほうが魅力が高いのにもかかわらず、間違った日本食が受け入れられているのは、やはり価格です。正しい日本食は間違った日本食よりも高い傾向があります。正しい日本食が客を獲得できないならば、それは客を満足させる値段で満足な質を提供できていないと認めるべきです。

ちなみに僕は、朝ご飯は白米とおかずと味噌汁を食べていますが、日本食レストランには友人に誘われたときしか行きません。そしてその時に行ったのは二度とも間違った日本食でした。しかし自分で選ぶ場合にも安い方のレストランを選ぶかも知れません。パリの客に提供されている選択肢は、1000円の間違った日本定食か、3000円の正しい日本定食かということなのです。僕の場合は、日本と同じ価格で、日本と同じ質の日本食を食べるのは無理だとあきらめているので、へんてこな日本食への興味心もあり手頃価格の日本食を選ぶと思います。

正しい日本食が価格と質の面で競争力を持つことを希望しますが、どのレストランに行くかは価格と質を比べて客が決めます。スシポリスは衛生面の指導など基本的な部分をのぞいて必要ないでしょう。
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21世紀の歴史――未来の人類から見た世界ヨーロッパ最高の知性と讃えられることもあるフランス人のジャック・アタリ氏による今後50年〜100年ぐらいの歴史を想像する内容です。過去の歴史の流れを解説し、現在現れている兆候を分析して未来を想像します。原著は”Une brève histoire de l'avenir”として2006年に出版されたものです。

本の帯には「世界金融危機を予見した書」と書かれていますが、著者は起こる時期は2025年までとしていたので、時期については実際の状況の方が前倒しされています。ただし、金融危機が起こる前の2006年にファニーメイ、フレディマックの問題を指摘したり、実際に起こったことと近い予測をしていたのは、やはり驚きです。

本書では、まず「人類による市場の発明→市場の歴史→現在の体制の崩壊(アメリカ帝国の終焉)」という過去から現在に至るまでの歴史と、現在起こり始めている現象が説明されます。その後に、”超帝国”、”超紛争”、”超民主主義”の三つの波が訪れると述べられます。最初の二つはお金による破滅、戦争による破滅で、最後の一つは「他人が幸せになるのを見て自分が幸せになる」人類の新しい社会です。最初の二つの波が人類を破滅させる前に、最後の波を起こさなければならないと説かれています。

2025年前後に人類が破滅寸前までに行く、詳細に描かれた”超帝国”の脅威と”超紛争”の破滅は、気が滅入ってくるほどです。それに比べると超民主主義はしっくりきました。死ぬ前にこんな社会を見てみたいと感じます(著者は2060年ごろと予想)。本書は、だれも欧州連合を想像しなかった時代にジャン・ジョレスがそれを思い描いたように、また資産家も労働者も存在しない時代にマルクスが資産家も労働者の関係を予言したように、未来を思い描こうとしています。
1914年7月にジャン・ジョレス(フランスの社会主義者・政治家。フランスの第一次世界大戦への参戦に反対し、熱狂的な愛国主義者に殺される)は自由で民主的な平和と連帯に基づいたヨーロッパを描いていた。当時、80年以内に旧大陸が、彼の思い描いていたような連合体になると期待できる要因はいっさい存在しなかったのである。(p.185)
1848年1月、マルクスは資本家が勝利して、その後に労働者階級に勝利が訪れると語ったが、その当時は資本家も労働者階級も存在していなかった。つまり、マルクスは資本家や労働者階級が登場する以前に、歴史の主人公を見抜いていたのである。こうした鋭い洞察力が我々には必要なのだ。(p.289)

人類は滅亡寸前まで追いつめられてから新しい社会を築く

お金と戦争の脅威(”超帝国”と”超紛争”)と新しい社会(超民主主義)の兆候はいま既に表れています。最初の二つが人類を滅亡のふちまで追いやってから、人類は新しい社会を築くというストーリーの順序の根拠は、人類は痛い思いをしないと学ばないからだそうです。
しかしながら、超民主主義の可能性を自覚するだけでは、<超帝国>の出現を阻止することはできず、また超紛争を回避することもできないであろう。というのは、人類とは良き知らせの上には決して何も築き上げることができない輩であるからだ。(p.287)
このストーリーの順序は欧州の歴史、もしくはフランスの歴史に似ていると思います。フランスとドイツは3度争い、どちらの国家も消滅の寸前まで行ってから(フランスはヒトラーに占領され傀儡政権を樹立、ドイツは東西に分かれて占領される)、互いの幸せを願い合うことが自国の繁栄に繋がることをようやく理解します。著者はこのストーリーが世界規模で起こることを予想しているように感じました。

著者は1981〜90年のミッテラン政権時代に大統領特別補佐官を務め、将来のEU構想実現に当たってフランスと統一ドイツの関係強化が不可欠になると予想し、大統領に東西ドイツ統一の必要性を強く進言していたそうです。

世界の中心都市の移り変わり

市場秩序のの中心都市は、これまでにブルージュ、ヴェネチア、アントワープ、ジェノヴァ、アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロスアンジェルスと過去に9回、西回りで移り変わってきたそうです。西回りの法則によると東京は次の良い候補なのですが、以下の通り筆者はその可能性は無いと見ています。
日本の首都東京は、1980年にチャンスを掴みそこねたが、2030年においても普遍的な価値を創造する能力に欠如しているだろう。例えば、個人の自由は、東京の哲学的理想ではなく、東京は外国から才能豊かな人々を十分に集めることもできない。(p.190)
中心都市に成るために外国から才能豊かな人々を十分に集めることをしないのは日本人の選択のような気もします。たかだか100〜400年で移り変わる中心都市に成り市場を支配するのではなく、辺境の地にとどまり自らの才覚で外のものを取り込んでいく方が東京にあっているように感じます。

未来の女性の役割について

著者は女性の役割が重要さを増していくと予想しています。「女性とは次世代の再生産や知識の伝承を支配しているから(P.29)」「おそらくいつかは女性が君臨することになる(P.29)」と述べています。また、他人が幸せになるのを見て自分が幸せになる”超民主主義”を推進していく”トランスヒューマン”は女性に向いていると述べています。
女性は男性よりもトランスヒューマンに向いている。というのは、相手を喜ばすことに喜びを感じることが母性本能であるからだ。経済・社会のあらゆる局面において、女性が次第に台頭してくることで、トランスヒューマンが増殖していく。(p.290)
日本の場合だと、例えば中国と韓国や東アジアが幸せになっていくのを見て自分も幸せに感じるようなものです(当然、その反対の日本の幸せが隣人の幸せを呼び起こす)。男性が主導権を持つ社会の延長線上で考えると、とても無理そうな感じです。これからは人類が破滅寸前まで行った後の、女性の主導権に期待すべきなのかもしれません。
21世紀の歴史——未来の人類から見た世界
ジャック・アタリ (著), 林 昌宏 (翻訳)

序文 21世紀の歴史を概観する
第1章 人類が、市場を発明するまでの長い歴史
第2章 資本主義は、いかなる歴史を作ってきたのか?
第3章 アメリカ帝国の終焉
第4章 帝国を超える“超帝国”の出現—21世紀に押し寄せる第一波
第5章 戦争・紛争を超える“超紛争”の発生—21世紀に押し寄せる第二波
第6章 民主主義を超える“超民主主義”の出現—21世紀に押し寄せる第三波
付論 フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?

2050年、そして2100年、世界の“中心都市”はどこか?国家、資本主義、宗教、民主主義は、どうなっているのか?「ヨーロッパ復興開発銀行」初代総裁にして経済学者・思想家・作家であり、“ヨーロッパ最高の知性”と称されるジャック・アタリ。これまでも、ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威、インターネットによる世界変化を予測し、見事に的中させてきた。本書は、アタリが、長年の政界・経済界での実績、研究と思索の集大成として「21世紀の歴史」を大胆に見通し、ヨーロッパで大ベストセラーとなったものである。サルコジ仏大統領は、本書に感銘を受け、“21世紀フランス”変革のための仏大統領諮問委員会「アタリ政策委員会」を設置した。
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Avignon, France
10月は更新エントリが3つで、アクセスは約35500PVでした。出張が3回あったためか、その月に更新したエントリ数の最低記録を6ヶ月ぶりに更新してしまいました。更新しなかった期間が25日だったのも、おそらく最長期間だと思います。

10月最後の出張は日本で、そのまま2週間滞在しています。バカンスのようなものなので、時間がある時にブログを更新しようと思っていたら挨拶回りで意外と忙しかったりして、あまり書く時間がありません。それでも、時間が経つと慣れて忘れてしまう感覚は日本にいるうちに書かなければと思い、来日してから5日目に日本一時帰国の雑感「日本は絶えず進化している」を書きました。

10月最終日に更新ししたのにも関わらず、このエントリが10月に最もアクセスを集めたエントリとなりました。今月書いたエントリは両方トップ10に入ったことになります。以下が、今週の人気エントリのトップ10です。
  1. 日本一時帰国の雑感「日本は絶えず進化している」
  2. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(1/2)
  3. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
  4. センター入試とバカロレアに見る日仏の違い
  5. 「2020年までに1990年の25%CO2削減」は絶妙な一手
  6. フランス語の勉強の仕方
  7. 第10回 Japan Expo Paris 2009行ってきました
  8. もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい
  9. 日本文化エロネタに対するフランス人の反応
  10. 日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない
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Provins, France
10月26日に日本に帰ってきました。台風通過後で飛行機がすごく揺れるというアナウンスが機内に流れ、実際にすこし揺れました。帰国後のニュースは、台風で転覆した船で3人が生存していたニュースと、ある女性の周りで不可解な死亡が頻発している事件の二つでした。

去年の正月に帰ってきたときも一時帰国の雑感を書いたので、今回も時間がたつとまったく忘れ去ってしまうような感覚を書いておこうと思います。

成田から横浜の自宅まで:異邦人の感覚

まず成田空港に降り立ったときに、気温は同じぐらいでかなり湿気が高いと感じました。パリでは、洗濯物やパンなどなんでも物が乾く乾いていきます。

空港の「Welcome to Japan」と「おかえりなさい」の併記に少し違和感を覚えました。やはり日本語は日本人だけがしゃべるものだと言う思い込みが強いと思います。つまり、日本語を勉強して初めて日本に降り立つ外国人とかは眼中に無いような感じです。フランス語では有り得ない前提だと思います。とはいえ、「日本へようこそ」では帰国者は興ざめです。担当者の気遣いに思いをいたしました。

空港内の売店には中国語が書かれていました。中国人の来日が増えていることが伺えます。

JR構内にはいたるところに駅員が配置されていて、しかも親切に教えてくれます。フランスでは有り得ないおもてなしに感激。アナウンスではすべての止まる駅を繰り返してくれたり、親切設計です。少しうるさいと感じる人もいるかもしれません。

駅と電車はかなりきれいです。観光で利益を得てるフランスも見習ったほうがいいと思います。グリーン車の切符拝見はスイカを席の上のリーダにかざせば、自動的に支払われるようでした。パリのNavigoも非接触カードだが期間単位の定期券しか買えない仕組みなので、座席の利用ごとに支払えるなんて未来のシステムに見えます。あと、機械に対する信頼度が日本の方が高いように感じます。パリでしょっちゅう壊れている改札を見ると、だんだんとそれを乗り越えている人間のほうが正しく感じてくるんです。そんな状態で座席ごとに支払われる仕組みを信頼するはずが無いと言い切れます。

地元に着くと帰ってきた~という感覚が沸きますが、これは別に日本だからと言うわけでもないみたいです。旅行からパリ郊外の自宅に戻ってきたときも同じような感覚を覚えるからです。住めば都という言葉もこれを表わしているかもしれません。

住んでいるうちは気づかなかったけど、今回気づいたのは、家の香りが、祖父母の家の香りと同じことです。

日本酒と刺身は、やっぱりうまい。最初の一口目は脳天に直撃したみたいでした。

2~3日目:危機管理に敏感になってるのかな?

この二日間は都内に出ていました。そこで気づいたことは日本人が危機管理に敏感になっているような気がしたことです。まず、この二日間で何回か電車で移動しましたが、3度も「緊急停車信号を受信しましたので安全確認ができるまで運転を見合わせます」というアナウンスが流れたのです。偶然かもしれませんが、電車運用の安全確認が厳しくなっているのかもしれません。

また、都内と横浜の地下鉄のおそらく全プラットホームに進入禁止のドアが設置されていました。日本人の安全志向の傾向が高まっているように感じます。安全志向は基本的にはいいことですが、安全とコストはトレードオフの関係にあります。コスト度外視で、なんでも完璧がいいとも言い切れないはずです。自己責任で安全に気をつけてくださいという方針も有り得ることなのです。

安全な環境に慣れれば、そのうちドアの無いプラットホームに恐怖する人が出てくるかもしれません。サービスを運用する側にすべての責任があって、顧客は安全について何も考えない環境が良いのか考える必要があります。すくなくとも、安全志向の高まりについては気に留めておいたほうがいいと思います。

5日目まで:日本は進化している

日本を離れて2.5年、3回目の一時帰国ですが、日本はものすごい勢いで変わっていると感じます。まず、地元では建物の風景がぜんぜん違います。実家の近くは開発中の地区だからかもしれませんが、フランスではこんな町はひとつも無いでしょう。パリはいつ来ても何も変わってないと言う妙な安心感がありますし、田舎の町はもっとそうです。

母校の研究室に挨拶に行ったのですが、こちらでも大きく変わっているという印象を持ちました。まず、研究室に留学生が増えました。日本にいながらにして国際的な環境で学ぶことが出来ます。また、大学院の授業では英語で行われるものも増えてきているそうです。留学生にとってはうれしい環境かもしれませんが、日本人の学生が付いていけないこともあるそうです。英語の必要性に気付けるいいチャンスだと思いました。

また、母校のキャンパスでは、グローバル30のカリキュラムを始めることになり、これによって英語だけで学位を取れるようになるそうです。僕は、「フランス留学のススメ」に書いたように考えてフランスに来ましたが、今ぐらいの学生は日本に居ながらにして、同様の経験ができるようになるのかも知れません。

以下去年の一時帰国の雑感です。
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Celle St-Cloud, France
2009年9月22日、鳩山首相が国連で、日本は温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減すると表明しました。1997年の京都議定書の削減目標6%すら守れていないのに(逆に9%増えている)、ムリムリというのが普通の反応です。1990年から25%の削減というと、あと10年ほどで今年の排出量から3分の1にする必要があり、年率にすると4.1%の削減だそうです(参照)。

この目標は、経済的なコストがかさみ、企業の業績の足かせになるなどの反発もありますが、なかなか絶妙な政策だと思いました。

難しい問題だからこそやりがいがある

まず、この問題は人類がいつかは解決しなければならない問題だということがあります。地球の温暖化は温室効果ガスだけが原因ではないという調査結果なども出ていますが、エネルギー問題/環境問題としてみると、今は増え続ける一方の排出量を、いつかは減らす努力をしなくてはなりません。首相が「世界の中で相対的に高い技術開発力と資金力を持つわが国が、率先して削減目標を掲げ革新的技術を生み出しつつ、その削減を実現していくことが国際社会で求められている」と言うように、日本はこの問題を解けるかも知れない数少ない国のうちの一つです。

また、以下の引用にもある通り日本人は目標に向かって一致団結すると馬力が出るところがあります。現状ではかなり解決困難な目標ですが、団結して知恵を出し合い工夫を重ねれば、もしかして打開策が出てくるかも知れないという期待もできます。

ハトが大風呂敷から舞い上がる:日経ビジネスオンライン
「所得倍増」とか、「日本列島改造」とか「ふるさと創生」とか、この手の手近なハードルが決まると、うちの国の国民は、非常にめざましい働き方をする。でなくても、われわれは、「電子立国」「技術立国」みたいな壁に大書できるタイプの目標があると、その方向に一致団結してとても効率的に動く。これは、他の国の 人々にはなかなかマネのできないことだ。
日本人としてはやりがいのある目標に思えます。

環境先進国のイメージは日本企業の後方支援

温室効果ガスの排出を削減する努力は、排出を垂れ流すことに比べてコストが高くつきます。高すぎる削減目標には企業からの反発もあるようですが、長い目で見ると日本企業にも良いことが2つあります。まず、これから削減目標を満たそうとする努力を優遇する税制が出てくると思われます。これはエネルギー効率を改善する技術に対する投資を容易にします。排出ガスを垂れ流すことが許されている国では高コストな排出削減努力は行えませんが、削減に努力している国では高コストな排出削減への投資も行えます。下の引用にあるように、技術的な成果は輸出可能で利益にもなります。削減努力をする企業に取っては有利な状況となります。

「25%削減」に秘策はあるか? 「ポスト京都」命運握る排出権取引 JBpress(日本ビジネスプレス)
首相が言うように「高い技術開発のポテンシャルと資金力を持つわが国」はリーダー的な役割を担いつつ、その技術を海外に輸出して市場を形成する可能性を追求すべきだろう。国益としても重要事項である。
次に、消費者の環境意識の高まりは、環境に配慮した製品が選択される傾向を生み出し、今後は消費コストの少ない省エネな製品の人気が高まるはずです。この時に、環境問題を考えない国の企業が省エネの製品を出しても信用されません。過去に「高機能、高品質」なイメージで世界を席巻した日本製品のように、「環境、クリーン」な日本のイメージは将来、日本企業を後方支援するはずです。

官僚主導の政治を政治家主導に

この政策を絶妙だと思うところに、官僚主導の政治を変える意図を鮮明に感じるところです。新首相の方針として、官僚主導の政治を官邸主導にというものがありました。現在は指揮官と幕僚を両方官僚が占めているところを、政治=指揮官、官僚=幕僚という図式に変えることです。何かと批判が出ている官僚ですが、以下のように日本の官僚の優秀さは世界でも認められているほどです。指揮官がしっかりすれば、幕僚は強力だと言うことです。
日本のメディアと政治:出ずる日の光を取り込め  JBpress(日本ビジネスプレス)
「官僚社会の精神構造はまさに、サムライ当時のままだ。それは強い意思を持ち、忍耐強く、組織的にも非常に強いものだ」
さて、「2020年までに1990年の25%CO2削減」という大戦略は指揮官(政治家)が決定したことです。今までのように官僚が指揮官と幕僚を兼ねていれば、到底無理な目標だと反発して、全体の方向性が発散してしまったでしょう。官僚=幕僚という図式に当てはめれば、指揮官の決めた不可能に思える目標を可能にする個々の作戦を立案するのが官僚の仕事になります。優秀な官僚がしっかり仕事をすれば、わずかな可能性を開く打開策が見えてくるのではないでしょうか。期待したいです。

鳩山首相は「2020年までに1990年の25%CO2削減」という大方針を世界に約束したことで、政治=指揮官が大戦略を構想し、官僚=幕僚が個々の作戦を作るという構図を創り出したことが、絶妙な一手だと思います。(優秀な指揮官を選べるかは投票を行う国民の知性によるので、また別の話です。)

環境立国日本を目指して失敗したら教訓になる

25%削減で日本はまた欧米の手玉に?:日経ビジネスオンライン」には、京都議定書では欧米にカモられて不平等な削減目標を飲まされて、今回の発表では欧米はラッキーと思っていると書かれており批判的です。この批判的な試算では、排出権を「仮にトン当たり15ユーロ(約2000円)で買い付けるとすれば、8000億円の国民負担になる。...(略)...単純計算して6%削減のために8000億円が必要であれば、25%のためには、3兆3000億円が必要になる。」とあります。全てがダメダメに終わっても3兆3000億円です。湾岸戦争、住専問題、無駄な道路/建築などなど、ドブに捨てるように使われてきた数十兆円に比べれば掛ける価値のある金額だと思います。演説では「日本の25%削減目標は、すべての主要国による意欲的な目標の合意が前提」と予防線を張ってますが、中途半端に尻すぼみにして、なかったことにするにはもったいないほどの可能性のある賭けだと思います。

「2020年までに1990年の25%CO2削減」という目標は、世界を驚かせるには十分な数値目標で、成功すればこの分野における日本の立場を確固たるものにするはずです。とはいえ、非常に難しい目標です。一致団結して腰を据えて取り組み、本気でやらねば絶対に到達できない目標でもあります。

知恵を出し切り工夫を尽くした上で目標を達成できなければ、少なくともその頃には日本には環境立国という道があるのか、ないのかハッキリするはずです。まずは一つの方向にひたすら進んでみて、ダメでも教訓が残るはずです。その教訓を元に他の方向にも再チャレンジすれば良いことです。最近の日本のようにチャレンジすべき問題が見つからなくて、悲観的にだんだん沈んでいくように思っているよりは、断然マシだと思います。
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Toulouse, France
9月はブログに時間を取れなくて5エントリを投稿してのアクセス数は約40200PVでした。

日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない」9月3日にガジェット通信さんに寄稿と言う形で掲載させてもらいました。この記事はmixiニュースlivedoorニュースexciteニュースに転載されていたため多くの人に見てもらえたようです。そのおかげで、2ちゃんねるでもスレッドがたって議論されていたようです。この様子はまとめサイトでも見れます。
議論の中で、このブログの著者が日本人であることに気づかない人がいたので、Madeleine Sophie (日本人・男)と自分の属性を載せるようにしました。フランスでは全ての日にちにキリスト教の聖人が割り当てられていて、Madeleine Sophieは僕の誕生日の聖人なのですが、実はこの方はフランス人女性なのです。混乱させてしまったかもしれません。

博士課程には2年前の10月に入学したので、卒業を予定している時期がちょうど後1年に迫りました。ちゃんと終わらせるにはどうすれば良いか、その後はどうしたいのか、いろいろ考えなければならない時期にさしかかってきました。元々このブログはフランスで博士課程をする人を勇気づけたいと始めたものなので(→[まとめ] フランス留学のススメ)、自分自身がちゃんと学位を取得できなければ目的と反対の影響を与えてしまいます。そうならないように、いろいろ考えていかないとなあと感じています。

今月のトップエントリです。
  1. 日本色の付いた技術ではもう世界で勝てない
  2. もうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい
  3. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(2/2)
  4. 日本文化エロネタに対するフランス人の反応
  5. 第10回 Japan Expo Paris 2009行ってきました
  6. フランス語の勉強の仕方
  7. 日本の失敗産業と成功産業は間もなく融合する(通信と自動車)
  8. 日本人はなぜ悲観論が好き
  9. フランスのマンガ人気
  10. フランス人から見た日本特集『Un oeil sur la planète: Japon : le reveil du sumo ?』(1/2)
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Paris, France
怠け者同盟の社会は人類の未来 このエントリーを含むはてなブックマーク」では、競争を抑制することで、全体と個人の時間や体力、資源を節約するアプローチを試験で例えました。この例えを使えば、様々なトピックにおいて日本の労働に関する状況がクリアになることに気づいたので紹介します。

怠け者同盟の社会は人類の未来
怠け者同盟の社会を試験で例えると以下のようになります。大学入学試験などの熾烈な競争の下では、「四合五落(4時間寝た者が合格し、5時間寝た者が落ちる)」といったことが起こりえます。競争がエスカレートするため、ライバルたちより睡眠時間を削る必要があります。怠け者同盟の社会は、これを8時間睡眠しないものは試験を受ける権利を失うというルールを設定したようなものです。つまり8時間睡眠したもの同士の競争になるため、競争は抑制されたものになります。
今回取り上げるトピックは、「日本人の労働生産性が低い」という命題と、「ベーシックインカムがもたらす影響」についてです。

日本人の労働生産性が低い理由

日本人の労働生産性が低いことはよく言われることで、以下のサイトにも色々な理由が考察されています。
残業代もなければ生産性も低い〜日本人の「労働」に未来はあるか:日経ビジネスオンライン
社会経済生産性本部の調査では、2007年の日本の労働生産性(社員1人当たりの付加価値創出額)は約6万7000ドルで、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国の中で20番目。主要先進7カ国(米、英、仏、独、伊、加、日)の中では最下位で、14年連続最下位だ。

日本の1つ上の順位(19位)には、僅差でスペインがいる。スペインと言えば、昼寝の国。昼休みに、昼寝の時間として2時間以上休みを取る習慣がある。かたや、日本は、前述した通り、長時間労働の「働き蜂の国」。労働生産性は1人当たりの数値なので、長く働けば1人当たりの付加価値額はその分増えてもよさそうだが、実際は、「働き蜂の国」日本は、「昼寝の国」スペインに負けているわけだ。
なぜ日本がフランスに労働生産性で負け続けるか簡単に述べると、それは日本は競争が激しすぎるからです。試験に例えると、日々「四合五落の試験」を受けている日本人と、「8時間寝ないと試験資格を剥奪される試験」を受けているフランス人の違いです。競争の度合いだけに着目すると、前者を「進学校受験」、後者を「DQN校受験」と例えられるかも知れません。こう例えると、欧米各国が日本の労働生産性の低さを非難もしくは嘲笑するのは、いわばDQN達が進学校受験者に対して「君たちは試験で80点取るのに何時間費やしてるんだ(笑)。俺はちょっと勉強したら50点取れたよ。君たちは1点取るための効率が悪い」と言っているようなものです。受けている試験の競争の度合いが違うので得点のための効率が違うのは当たり前です。こういった非難、嘲笑は放っておけば良いでしょう。

ただし、自由に競争した結果、競争がエスカレートして全体と個人の時間や体力、資源が無駄につぎ込まれている点に関しては、耳を傾けた方が良いでしょう。時間や体力、資源をどのような割合で振り分ける日本社会を作るのかは、日本人が決めることで、他国の意見は関係ないはずです。

ベーシックインカムがもたらす影響

ベーシックインカムは、政府が全ての国民に対して毎月最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金(5万円~8万円程度)を無条件で支給するという構想(wikipedia)で、色々なブログでも取り上げられています。

賛成派
反対派
僕は(この時代の日本においては)反対派です。「怠け者同盟の社会のまとめ」にも書いた通り「独力で世界を変える力の無い日本は、外圧を待ちつつ、国内の産業の国際競争力を維持するために現状の自由競争路線を維持するのが、取りうる最善の策」だと思うからです。日本が世界に先駆けてベーシックインカムを導入することはあり得ないし、他国が追従する見込みもありません。正直、考えるだけ無駄か、思考実験ぐらいの代物だと思います。

思考実験としてベーシックインカムを試験に例えてみましょう。全員に毎月最低限の生活費を渡すのは、「全員が入学可能な学校を提供されている試験」と例えられます。この試験において各人の競争はどのように変化して、時間や体力、資源はどのように消耗/節約されるようになるでしょうか?おそらく日本では全員が入学可能である学校を用意したところで、トップ校を頂点としたヒエラルキーを背景とした競争が無くなることはないでしょう。各人は誰でも入れる学校があっても少しでも上を目指す傾向は無くならず、競争は緩和されません。

実際の社会に目を戻すと、これは過当競争の働き過ぎ社会が緩和されないことにあたります。おそらく、ベーシックインカムしか収入のない者は、「ベーシ」などと略され、ニートやヒキコモリとにたような語感で呼ばれるようなことになるのではないでしょうか。各人は「ベーシ」だけには落ちたくないと必死で働き続けることが考えられます。こう考えるとベーシックインカムは現在の日本においては非現実的であるだけでなく、「投入する時間や体力、資源を節約して効率よく成果を得る」効果も疑わしいと言わざるを得ません。

まとめ

労働に対する社会の仕組みを試験に例えると、競争における時間や体力、資源の配分が分かりやすくなると思います。似たトピックにおいて応用が利くと思うので、ぜひ活用してみてください。

関連:

  1. 怠け者同盟の社会のまとめ
  2. 怠け者同盟の社会は人類の未来
  3. 怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段
  4. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス
  5. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本
  6. 怠け者同盟の社会の中で輝きを取り戻す日本 このエントリーを含むはてなブックマーク
  7. 自由のスパイラルから脱出を目指す怠け者同盟
  8. 労働に対する社会の仕組みを試験に例える
  9. ベーシック・インカムよりも怠け者同盟の社会 このエントリーを含むはてなブックマーク
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Gordes, France
怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス このエントリーを含むはてなブックマーク」では、「フランスが反論のしようのない美しい論理を構築するときは、多くの場合その背後にフランスの国益が潜んでいます。その点が、フランスのしたたかさであり、世界の国々に警戒されている点でもあります。」と書きましたが、思いもつかなかったの論理を見つけたので紹介します。それがこれです。
asahi.com(朝日新聞社):GDP算出に「幸福度」を加味 フランス大統領が提案
経済フォーカス:大切なものを測る尺度 GDPだけで豊かさは測れない JBpress(日本ビジネスプレス)
ニコラ・サルコジ仏大統領は先日、GDPの計算方法を見直し、長期休暇や環境への貢献などの 「幸福度」を加えるべきだと提案した

怠け者同盟の社会を実現する論理

グローバルな世界において、怠け者同盟の社会を実現する手法として「怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段 このエントリーを含むはてなブックマーク」では同盟の拡大と同盟をつなぐ論理の構築を挙げました。同盟の拡大の例としてはEUの拡大を挙げましたが、論理の構築の方では、主に人権の拡張を説明しました。つまり、怠け者同盟の社会を進めていくために、発展途上国の未成年の不当労働、過労死や過剰労働による鬱などを槍玉にあげ、これらが人間の基本的人権を踏みにじっていると主張すると予想しました。今のフランスの傾向を分析して、今後もそれ以外に手が無いと考えたからです。でも、フランスは僕の想像を超えたようです。

否定し難い論理を利用するフランス

なんとGDPの算出方法を変更してきました。これが実現すれば、怠け者同盟の社会を実現して、競争を抑制してもグローバルな経済競争に負けることは無くなります。何しろ働いていない分も人生の幸福に貢献する使い方をすれば、数値が増加するからです。JBpress(日本ビジネスプレス)によると、「昨年サルコジ氏が任命した委員会――5人のノーベル経済学賞受賞者を含む計25人の著名社会科学者で構成――が、その研究成果(英語、292ページ)を発表した。」とあります。権威付けもなかなかですね。

フランスもすぐにはこの指標が世界標準になるとは思ってないでしょうが、もし進捗があればフランスは提唱者としての地位も確保しつつ、世界がフランスの思う方向に進むと考えているはずです。GDPが人々の暮らしの善し悪しを評価していないと言うのは定説になりつつあるので、妥当なラインを突いてきたと言うことでしょう。もし指標の標準化に失敗しても、フランスは目指す世界を世界にアピールできます。「世界に理念を波及させる国、フランス(参照)」としては、世界に自分たちの考え方を分かってもらえるだけでも国益になるのです。

否定するのは難しく、権威付けも整えて、したたかにも論理の裏に国益を忍ばせてあり、失敗しても利益になる外交テクニックは、見事と言うしかありません。

その他

自由競争に熱心なアングロサクソンの一員の英エコノミスト誌はちょっと突き放して書いているところが面白いですね。きっとフランスの唱える論理の裏側にフランスの国益を見透かしているのでしょう。
もう1つのリスクは、計測方法の拡散は利益集団への贈り物になり得ることだ。というのは、国の富の取り分を増やすために、自らの窮状を強調するような数値を好きに選べるようになるからだ。とはいえ、今はまだ初期段階だ。まずは、いろいろ測ってみたらいい。JBpress(日本ビジネスプレス)
こちらも面白いです→世界級ライフスタイルのつくり方 - 「幸福度」をGDP算出に

関連:
怠け者同盟の社会のまとめ
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Avignon, France
怠け者同盟の社会は人類の未来」から始める続きのエントリでは、フランスと日本の社会の違いを、労働に対する考え方を中心に考えてきました。フランス人の労働の価値観や、フランスが目指している政策などの背景を分析したものでした。長いエントリが続いたので、まとめるエントリを作っておきます。今後もこの話題のエントリにリンクしたいと思います。

怠け者同盟の社会のまとめ(2009/09/22)

まず、「怠け者同盟の社会は人類の未来 このエントリーを含むはてなブックマーク」では、怠け者同盟の社会では、競争を抑制し負荷を減らすということを述べました。働き者たちの社会では、企業間や個人間の競争によって地球資源、労働時間、体力をムダに消費しています。競争を抑制するために各人の労働の自由を規制すると言う考え方を紹介しました。

怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段 このエントリーを含むはてなブックマーク」では、グローバルな世界において、怠け者同盟の社会を実現する手法について考えてみました。グローバルな世界では自分だけ競争を避けてしまっては、自分だけ貧しくなってしまいます。これに対抗する手段は、同盟の拡大と同盟をつなぐ論理の構築でした。モデルはフランスですが、例えばEUのような同盟や、発展途上国の悲惨な未成年の不当労働を非難するための論理を構築していると考えられます。

怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス このエントリーを含むはてなブックマーク」と「怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本 このエントリーを含むはてなブックマーク 」では、怠け者同盟の社会の実現に対する日仏のアプローチの違いを分析してきました。簡単に言うとフランスは理念の押し付けに熱心で、日本は受身だと考えられます。フランスは今後も同盟を強化し、論理で相手を説得するでしょうし、日本は怠け者同盟の社会に変わりたいならば、外圧をテコに変わっていけばいいと述べました。

最後に、「自由のスパイラルから脱出を目指す怠け者同盟 このエントリーを含むはてなブックマーク 」では、「Zopeジャンキー日記」さんへの返答で、自由一辺倒の考え方がヨーロッパでは薄れてきたことを解説しました。

全体的にはヨーロッパで発達してきた怠け者同盟の社会が日本にも波及していくという視点で描いています。本当に来るのか、いつ来るのかは分かりませんが、ヨーロッパ人の意識の中にはこんな様な展望を感じます。

左右の対立を越えて損益だけを考える

日本で主流である自由に働ける「働き者の社会」を保守(右派)と捉え、ヨーロッパで始まっている自由に働けない「怠け者の社会」を革新(左派)と捉えることも可能です。一連のエントリでは、怠け者の社会を説明するとき以外には、両者を中立に扱ってきました。実際、結論は「独力で世界を変える力の無い日本は、外圧を待ちつつ、国内の産業の国際競争力を維持するために現状の自由競争路線を維持するのが、取りうる最善の策だと思います怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本」というものでした。いわば、将来は左派を見据えながらも現状は右派で行くという作戦です。ハードワークは怠け者の社会では抜け駆けにあたりますが(参照)、できるだけ長く抜け駆けをして利益を追求しながら、世界が怠け者の社会に流れるのを見てから、怠け者の社会に合流する、多少ずる賢い作戦です。

どんなにハードワークが嫌いな人でも自分だけ貧しくなることには耐えられないでしょう。競争を排除する怠け者の社会を急激に適応してしまうと、国際的競争力が衰えて自分だけ貧しくなるリスクは避けられません。よって多少は競争は必要です。反対に、どんなに仕事が生き甲斐の人でも全ての時間、体力を仕事につぎ込んでしまうのはイヤでしょう。資源を無駄に消費する競争は避けた方が賢明です。右だ左だを越えて、対外的に競争力を確保しつつ無駄な競争を避ける方法を模索したいものです。
  1. 怠け者同盟の社会のまとめ
  2. 怠け者同盟の社会は人類の未来
  3. 怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段
  4. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス
  5. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本
  6. 怠け者同盟の社会の中で輝きを取り戻す日本 このエントリーを含むはてなブックマーク
  7. 自由のスパイラルから脱出を目指す怠け者同盟
  8. 労働に対する社会の仕組みを試験に例える
  9. ベーシック・インカムよりも怠け者同盟の社会 このエントリーを含むはてなブックマーク
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Toulouse, France
今サムスンVSソニーと言った書籍が話題になっているようです。

ソニーVSサムスン - 池田信夫 blog
ソニーは日本の代表的なグローバル企業だが、最近はグローバル化の失敗例として引き合いに出されるほうが多い。他方、ソニーに代わってアジアの電機メーカーの雄になったのはサムスン電子だ。本書は両社を比較し、その失敗と成功の要因を分析したものだ。
フランスで新刊を手に入れるのは高価なのでまだ読めてないのですが、高性能・高機能であるMade in japanの象徴だった企業が韓国企業の雄サムスンの後塵を拝しているといった内容だと思います。サムスンとソニーの争いを分析すると言う試みは興味はあるのですが、これを韓国企業と日本企業というように一般化するのは無理があると思います。サムスンは韓国では特別な会社だと聞きました。このエントリでは僕が聞いたサムスンすげーという話を紹介しようと思います。

サムスン社員は賃上げ交渉をしない

まず、サムスンの友人に聞いた話。韓国にも春闘のように賃上げ交渉の季節があるそうなのですがサムスン社員は賃上げ交渉をしたことが無いそうです。サムスンは社員に対し業界平均賃金より高賃金を約束しているからです。サムスン社員としては、他企業の社員が勝ち取った給料アップより上乗せして給与が増えるので、他企業の賃上げ交渉を応援する気持ちで心穏やかに眺めていられると言うことになります。まあ誇張して言ってるのかもしれませんが、そんな傾向はあるのかもしれません。

友人のサムスン社員

サムスン社員の友人がひとりいるのですが、そいつがすごいやつなのでサムスンすげーと思ってしまいます。彼は数学で博士号を取ったエンジニアにもかかわらず、多少日本語をしゃべります。そして漢字を使わない韓国にもかかわらず、多くの漢字を書けます。技術の説明をするときでも日本人の僕に対しては、抽象的な概念は漢字で書いて意味を確認したりするのです。アジアの文化を知るためには漢字が興味深いから練習して覚えたと言っていましたが、日常では使わないものを教養だけのために覚えるのは意識が高いと感じました。極めつけは、世界史に詳しかったことです。フランスの歴史についてフランス人よりも詳しく、職場のエンジニア集団の中でも一目置かれていました。

サムスンは韓国でも特別な会社

サムスンは言うまでも無く学生に韓国で人気の就職先です。別の韓国人学生はサムスンは最高の給与で最高にハードな仕事をするといっていました。サムスンは特別な会社で仕事のつらさに重きを置いた話だったのが印象的でした。「仕事を取るか、自由時間をとるか」人生について考えなければいけないほどに、ハードワークだそうです。

サムスンVSソニーを韓国モデル対日本モデルに一般化するのはナンセンス

サムスンVSソニーという本がこういった一般化をしているかは分からないのですが、これをもって韓国モデルが日本モデルを上回ったと分析するのには無理があります。ソニーが日本企業を代表しているという一般化はできても、サムソンが韓国企業を代表しているとすることに違和感を感じました。サムスンは特別に高給な会社が特別に優秀な人材を集める体勢を敷いて、社員が特別にたくさん働く会社で、韓国でも特別視されています。もちろんサムスンの良さを知り、日本企業の問題を知るのには賛成です。
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